土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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会場は寂(せき)として声を失った。壇上で傲然と胸を張る西園寺さやかは、完全なる征服者だ。その隣には、かつての主君に反旗を翻したシオンが立ちつくしている。
西園寺さやかはうつむいて身体を震わせ始めた。
泣いている?
いや、違う。彼女は懸命に笑いをこらえていた。やがて我慢できなくなったように肉声で笑い始めた。その声は艶やかで、掠れた電子音声とは全然違っていた。
西園寺さやかの高笑いが虚ろに響く中、このまま西園寺さやかの軍門に降ってしまうのか、と思ったその時。
背後で若々しい、凛とした声が響いた。
「情けないなあ。田口先生も彦根先生も、無神経なサイコパスにやりたい放題されているのに何ひとつ言い返せないなんて、幻滅だよ」
俺が顔を上げると、ベビーフェイスの青年が俺と彦根を睨みつけていた。それからその目を壇上の西園寺さやかに振り向けると、きっぱりと言い放つ。
「そこまでだよ、あんたは少しやりすぎた」
その声の主は、落第王子の天馬大吉だった。
海堂尊『ケルベロスの肖像』25章 Aiの光と影 本文 天馬大吉 より
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