土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
|
通報 |
小百合は目を見開き一喝する。
「このクソ親父。素直に土下座でもすれば、まだ可愛げあるものを」
高階病院長はうっすらと笑って応じる。
「土下座しろ?冗談言っちゃいけません。そんなことしませんよ。あなたはさっき私の過去を暴いたことで東城大の精神を砕きAiセンターを崩壊させることで東城大の未来を破壊したと言った。でもそれは間違いだ間違いだ。たとえ私が打ち砕かれても、東城大の魂は砕けません。Aiセンターが破壊されたぐらいでは、東城大の未来は破壊されはしない」
高階病院長は大笑いを始めた。小百合は目を見開いて凝視する。
「私が脆いてまで敬意を払いたい相手、それはあなたではない。あなたの父上、銀獅子の桜宮巌雄先生です。あなたなんぞ、世間知らずのお嬢ちゃん、桜宮の当主の資格などありません。それどころか、あなたは次の世代の東城大にも敵わない。あなたの捨て身の攻撃を受けた今でも東城大の魂である彼ら、そしてAiの未来はその輝きを失ってないんですから」
阿々大笑しながら、高階病院長は俺と彦根をぐいと両腕で引き寄せる。そして昂然と言い放つ。
「これが東城大の良心、そして医療の未来。打ち砕かれることのない希望の光です。彼らが生き残っている限り、東城大の命運が尽きることはない」
俺は、高階病院長の啖呵に呆然としながら聞き惚れる。
炎が爆ぜる音の中、ばらばらと建材の破片が降り注ぎ始めた。
俺と彦根を、交互に凝視していた小百合は目を細めて、うっすらと笑う。
「腹黒タヌキの後釜は、優柔不断な懐刀とクソ生意気なスカラムーシュなのね」
小百合が言い終えたその瞬間、天井から太い梁(はり)が炎に包まれながら落ちてきて、ステージ上の小百合と観客席の俺たちの間を遮った。
「いかん、もう限界です。避難しますよ、田口先生」
俺は、高階病院長の呼びかけに我に返り、足元にうずくまる彦根をどやしつける。
「この程度でギブアップするとは、お前の野望はそんなチャチなものだったのか。目を覚ませ。自分の足で立ち上がれ」
俺は彦根の頬を張る。その声に、彦根の目の光が蘇る。
「冗談じゃない。前線基地をひとつ失っただけ、本当の闘いはこれからです」
「その意気だ。一緒に逃げるぞ、とっとと走れ」
海堂尊『ケルベロスの肖像』26章 天馬、飛翔す 本文 田口公平 高階権太 桜宮小百合 彦根新吾 より
| トピック検索 |