冬。 2015-02-19 00:01:10 |
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零の囀 「 霧氷村 」
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私には昔の記憶が無い。
昔何をして遊んだのか、昔どんな性格だったのか。
唯一思い出せるのは、鳥の囀と幼い子供の泣き声ーー…そして、沢山の鈴の音。
そこで記憶は止まり、そこから先は思い出せない。
まるで無くされたように、消えて、分からなくなっている。
過去に何があったのか、それを探る為に家にあった一つの古いアルバムから分かった、霧氷村という村。
その場所に確実に私の記憶は有る気がした。
「__り、__朱梨___ッ 」
「 __ッ、 」
「 たく、急に静かになんなっつうの、」
そして目前にある赤い鳥居。
漸く来た、霧氷村。
先程から森を辿り、沼を歩き。
そして漸く見つけた霧氷村のシンボルとも言える赤い鳥居を見てから私は無意識に動きを止めていたらしい。
相当ご立腹の兄は心配そうに見つめてくるが、何か先程から息苦しさ私に取っては只の恐怖でしかなかった。
「 は、早く行こう!お兄ちゃん!」
「 自分から止まっててそれはねーだろ…ってわわ!引っ張んな! 」
恐怖から泣き出しそうになった震える声で無理矢理自分を牽制して、隣に立つ兄の手を掴んだ。
そして大股に、鳥居をくぐったその刹那。
目眩にも似たふわりとした感覚に目を見開く。
兄の腕を掴んでいた手は何もない空間を掴んでいて、やがてやり場を無くした片手は力無く下がった。
兄が居ない。
先程まで近くに居た兄は私の前方にも勿論左右にも後方にも、どこにも見当たらなかった。
短時間で、只数秒でどこかに隠れる程兄は足が早い訳でも無いのにと涙で見えにくい視界を後ろに再び向けた時だった。
____幼い子供がいた。
白い着物を着て、赤い帯をしている、__まるで私の様な女の子。
「_____わたしで、良いのならば。」
凛々しい声は今の私からしたら考えられないけれど、どことなく私に似ている部分が有る。
雰囲気、歩き方、小さな些細な事かもしれない。
でも直感的に分かるのだ、これは私だと。
私で良いのなら、その言葉の真意は何だろう、私が何かを差し上げるのだろうか。
思案に浸る私の目の前を、ゆっくりと横切っていく幼い「わたし」。
金縛りのように止まっていた瞬きを1、2回再開させると其処にあの少女も、そして近くに居た黒い影も無く、兄の居ない空間だけが残っている。
「 お兄ちゃん…? 」
夢ではない、兄はいない。
何時もだったらきっと泣き出してしまうその心細さは、今は探さなければいけないという強い追及心で体が勝手に動いた。
霧氷村。
この村の先に兄は絶対に居ると断言出来るからだ。
未来を詠んだ訳ではない。
只仄に香る兄の残り香が私を村奥へといざなっていた。
兄を探さなければ、
そして、記憶を取り戻さなければ。
只その強い2つの意思で私の足は村奥へと無意識に向かっていた。
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