土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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黒崎教授は沼田を見つめる。
「ワシがコイツと相容れることは金輪際ない。コイツのルール違反は許し難い。今回の一件もそうだし、過日の越権行為だって同じこと。あの日のことを思い出すと、今でもはらわたが煮えくりかえる」
「それでは、なぜ?」
「たとえワシが気に喰わなくとも、桜宮の医療にはコイツが必要だ。ワシは規則という枠を守って生きる。コイツはその枠を破壊しながら前進する。ワシたちは互いに互いを必要としている」
そう言うと、黒崎は沼田を見つめた。
「君にはわからないだろうな。救急現場は神でなければ裁けないのだ。そして、あの城東デパート火災の時、ワシはコイツの中に神を見てしまった。たとえ破壊神だとしても神は神。人間に逆らえる道理はない」黒崎は遠い眼をして続けた。
「勘違いするな、ワシは速水が神だと言っているのではない。ああいう場があり、あの時の流れの中で、ほんの一瞬、神がコイツの肩の上に舞いおりた。ただそれだけのことだ。だが、多くの凡庸な医師が生涯一度も神に遭遇することなく朽ち果てていくことを思えば、なんという祝福だろう。あの時ワシは初めて知った。神の指図で動くことが、あれほどまでの愉悦を伴うものだということを……」
黒崎教授は言葉を切った。そして続けた。
「ワシのプライドや肩書きなんて、そうした瞬間には、すべて吹っ飛んでしまうくらい、ささやかたで他愛ないものだ」
海堂尊「ジェネラル・ルージュの凱旋」第二部 戴冠 25章 リスクマネジメント委員会 本文と黒崎教授、沼田先生 より
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