田口は並木道をたどりながら、思い出す。桜吹雪の中で見失ってしまった男の横顔。 今は冬。男から託されたものを、きちんと田口は受け取れたのか。襟元を吹きすぎる木枯らしに、一瞬震える。枯れ枝の梢は幾何学紋様を描き、青空を無数の断片に砕く。 田口は急ぎ足で赤煉瓦棟を目指した。 海堂尊『ジェネラル・ルージュの凱旋』第二部 戴冠 12章 赤煉瓦の泥沼 冒頭 本文 より