土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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「ベッドが空いていたからよかったですが、空いていなければどうするつもりでしたか?患者を救おうという行為は尊いですけど、最後まで面倒を見られないのに引き受けるのは無責任だと思いませんか?」
田口の思いもよらない厳しい言葉に、小夜が凍りつく。
翔子の胸の中に、きな臭い感情が湧き上がる。それをそのまま口にする。
「それなら、あたしたちはどうすればよかったんですか。吐血患者を目前に手をこまねいて見てろ、とおっしゃるんですか」
田口の眼に、深い色が浮かぶ。視線を、暗い窓に投げかける。雨音が部屋に満ちる。
やがて、静かな声が答えた。
「今のは大学病院に属する組織人としての言葉です。残り半分、私自身の意見をお伝えします。今夜のあなた方は医療人として立派に責務を果たしました。その結果、ひとりの患者の命が助かった。口やかましいことを言ったのは、大学病院のスタッフならば誰でもそう言ったはずだからです。手続きを飛ばして正義を貫こうとしても、刃(やいば)は肝心の所には届かない。必ずしっぺ返しに遭って叩き潰される。おふたりを見ていて。少し心配になったものですから」
翔子は、穏やかな言葉に拍子抜けした。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの凱旋』第一章 潜航より 田口公平 如月翔子 浜田小夜 より
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