土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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実は俺は、学生時代からこの部屋の存在を知っていた。
サボり魔だった俺には、隙間の空間を見つけ出す才能があった。サボるたもには、他人に見咎められることないの空間を見つけることが最優先する。そのようにして探し当てた秘密基地。それがこの部屋だった。
こうしたことに上手くなるにはちょっとしたコツがある。それは、他人とは毛色の違う好奇心を持つことだった。
どんづまりの部屋の、はめ殺しのくもり硝子から、光が日射しの形状を徐々に喪失しながら、部屋に染み込んでくる。その光は柔らかく、昔も今も少しも変わらない。こうしていると、学生の頃を思い出す。
学生時代、ここは俺の一番のお気に入りだった。床に寝そべりながら古本を読みながら、意味もなく天井のシミを数えたりもした。いつの日かここでぼんやりと時を過ごせるようになればいいあ、と夢見ていたあの頃。
夢はかなう。ただし、半分だけ。
ここで時を過ごすという夢はかなったが、ぼんやりと暮らしたい、という残り半分はかなっていない。
海堂尊『チーム・バチスタの栄光』 第一部「ネガ ゆりかご」 本文より
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