土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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小さな笑い声がした。
氷室は腕をだらんと垂らした。ぽっかりと開かれた目が、見下ろす俺の視線を捉えた。視線を切らずに、そのままゆっくりと上半身を起こす。
「バカバカしい。これが、天意か?」
呟くと、口の端をぬぐう。俺の手にある、赤いケースを見つめる。
これでよかったのか?
「バカバカしいが、これが天意か……」
氷室はもう一度呟いた。周囲をゆっくり見回す。小柄な身体にまとわりつく大勢の視線の束をぶった切り、氷室は俺をまっすぐ見上げる。
「僕は生きることになった。田口先生、後悔するよ」
「せいぜい、牢屋でほざいてろ」
俺は吐き捨てた。俺たちは睨み合ったまま、微動だにしなかった。
俺と氷室を囲んでいた人垣が割れた。高階病院長と白鳥が駆け込んできた。白鳥は俺を見つめ、それから氷室を見つめ、ぼそりと吐き捨てる。
「バカだなあ。殺しちゃえばよかったんです。こんなヤツ」
氷室は白鳥に切り返す。
「あんたの言う通りだよ。だけど残念だね、ゲームは終わらなかった」
白鳥は氷室を冷ややかに見つめる。
「僕は田口センセほど甘くない。きっちりお前を潰してやるよ」
氷室は晴れやかに笑った。
「やれるものならやってみな」
海堂尊「チーム・バチスタの栄光」本文より
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