土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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ため息のような由紀の言葉がこぼれ落ちる。
「この部屋は、私の窓なんです」
由紀はやがてくる未来図、医療の密室に幽閉される自分の姿を予見している。
長い沈黙の後、由紀はふっと笑う。
「こういう時に何も言わないでいてくれる人は、初めてです」
田口が言う。
「黙って立っているだけなら、案山子にだってできる、と言われたことはありますが」
由紀は一人の女性として田口の前に座る。それならせめて、華やかな女性が経験する輝かしい未来のひとかけらでも、ひとときに凝縮に感じさせてあげたい。この時間はきっと天の配列だ。
海堂尊『ナイチンゲールの沈黙』本文 田口公平、杉山由紀 より
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