土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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田口はアツシの大きな眼を見て、その眼が失われるという不条理に胸を痛める。
「ところで、アツシ君はどうしてアツシ君って名前なの?よければ教えて」
アツシはこっくりする。ててて、と机を回り、田口の側にやってくる。田口の耳許に両手を添えて、ひそひそ声で言う。
「誰にも言っちゃダメ、ってママに言われているけど教えてあげる。アツシって、ママがとっても好きだった人の名前なんだって。アツシって呼ぶと、ママは素敵な気持ちになれるんだって。内緒だから、誰にも言わないでね」
秘密の重さに途方に暮れた田口は、むやみに他人の生活に足を踏み入れるものではない、と自戒した。
海堂尊『ナイチンゲールの沈黙』本文 より 田口公平、アツシ少年
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