主 2014-07-24 22:20:32 |
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>九尾
(同じ妖怪なのに、自分とは遥かに違う九尾の彼。人間界にもすっかり溶け込んだ様子で、人当たりが良く、前向きで真っ直ぐで、妖怪の癖に薄気味悪い場所が嫌いな怖がりで、鈍感で、何時も魅力的な耳や尻尾だったり、何よりも彼以上にからかいがいのある奴はいなくて、一緒にいて例え沈黙が続いても退屈しない自信があり。自分にとって本当に可愛らしい存在。そう、ただ“それだけ”の存在だったらこんなことにはならなかったのに。最近の自分はおかしい。相手に何を求めているのか疑いたくなる時がある。他に入り混ざる“何か”があるから…。──自身が吐いた言葉により、強く握りしめられた彼の手が目に映り。続けられた言葉は本当に深い所まで胸が痛む思いで。以前、自分が相手に対し“意地っ張り”という言葉を吐いたがそれはそのまま今の自分へと返されてしまい。相手からして自分はどのように映っているのだろう。いつの間に相手の中に自分がここまで入り込んでしまったのか。なあ、今からなら未だ間に合う?冗談に決まってるだろ、の一言で彼は何時もの笑顔を取り戻してくれる?怖いくらい落ち着いている自分はぼんやりとそんなことを考えて。すると、握りしめられた相手の手に雫が落ちるのを目にし。ハッとし、顔を上げ相手の表情を伺えざるおえなくなれば、金色の瞳からは涙が流れており。その瞬間何かが吹っ切れた気がした。相手は羽織を己に預け、すぐさま“どっか行け”という先程吐いた自身の冷たい言葉を忠実に守り去って行き。これこそ、自業自得な結果で。結局、止めることも安心させてあげることも出来なかった。すっかり静まり返ってしまった廊下にぽつりと一人残されてしまえば、今まで味わったことのない、屈辱的な孤独を感じ。相手に預けられた羽織を手にすれば其れに顔を埋めて。ああ…彼奴の匂い。先程目に映った、彼の髪の色も、瞳も、目の下の黒子も、泣き顔も全てが本当に美しかったのを思い出し。それと同時に自分の醜さを感じさせられれば、まるで紅のように血がじんわり滲むほど唇を噛んでいて。こんなところで、こんなことで、大事な彼を失いたくない。自分のこと何てどうでもいい。とにかく一刻でも早く彼の元に。まだ火照りは残るも、先程よりはだいぶ動けるようになれば壁に手をつき一秒でも早く自室へと戻り着替え。ゆっくりと帯を締める余裕もなく、だらしのない格好だがバスタオルよりはマシだろうと。それこそさっきまで半死半生の状態でいた己が相手の為だけに何でも出来てしまう“一生懸命”という底力ってのは恐ろしいと感じ。相手の羽織を抱きしめるように抱えては、裸足のまま勢い良く屋敷出入り口の扉を開けて外に。一瞬暑さにくらりとするも、息を切らしながらきょろきょろと必死になって辺りを見回し。最悪、下界に行ったことも予想をしていたが、壁に背をつけ小さくなっている相手が目に入り。良かった…、彼の姿を見た途端全身の力が抜ける思いで、安堵のため息を吐くも此処からどう声を掛けていいのか分からず。ぴりぴりと緊張感が身体に走れば、外で鳴いている虫の声すら頭に入らなくて。今迄自分は誰かを必要としたことがなかった。常に自分が一番で、自分が何でも基準。独りでも苦痛なんてことはなかったが、今は違う。仲間と共に居たいと強く思っていて、自分の高いプライドが邪魔をしてしまっているのならそんなもの捨てる覚悟があった。ゆっくりと相手に歩みを進めるも、実際目の前に彼が居ると肝心の言葉が出て来ず、これではまた同じ結果になってしまうと拳を握り締めれば、地面に膝を立てて本当に大切そうに相手を抱き締め、行動で感情を露わにし。)
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