主 2013-06-22 18:50:00 |
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…お前に教えてやるたびに、お前が覚えてないってこと突き付けられんの。俺一人しか覚えてないって、すごく不安定で。もしかしたら、全部でなくたってどこかに俺の願望じみた妄想が混ざってるかもしれなくて…たまらなく、怖く、て…。――でも、もういいんだ。お前が覚えてないってことは、俺が忘れれば全部終わりってことだし。終わらせれば、もう苦しいことなんて何もなくなるって分かったから。
(相手が自分に真実を求めるということは、つまり求めることに対しては本当に何も覚えていないのだということを改めて突き付けられるということで。言葉で記憶喪失になったと伝えられるよりもずっと鋭く残酷なことでも相手にその自覚はなくて、自分が一人で苦しんでいるだけという状況すらこの場において不安感を煽る要因となってしまっていて。自分の身体を抱く腕の感触も、服越しに伝わってくる熱も慣れたものだったはずなのに今は懐かしさしか感じられず、自分ばかりが前に進めていない事実を突きつけられる抱擁にとうとう我慢できなくなった様に声を震わせると頬を伝う涙もそのままに絞り出したような声を漏らして。しかしそれも全てこの場で終わらせる、そう決めたからこそ相手に対峙することが出来ていて、そのまま相手の頬へ、首筋へ、胸元へと指を滑らせると制服の胸元をそっと握りながら相手の唇に口づけを贈り。)
…気持ち悪いことしてごめん。嫌いになって、いいから。こんな、男同士なのにキスなんてして、女装なんかにも手出して、いつまでも未練っぽい奴なんて…嫌いになっていいから。…俺も、俺のこと忘れたお前も、俺のこと思い出してくれないお前も、嫌いになるから。俺も、嫌いなお前なんて忘れるから…次会うときは、"どうでもいい"お前に初めましてを言うよ――。
(ゆっくりと名残惜しむように相手の唇から唇を離し、囁くような静かな声で言葉を続けると取り繕ったように口角を上げて。辛い想いも、甘い記憶も、全て忘れてしまえば苦しまなくて済む。散々考えた末に出た答えを実行すべく訪れたこの場で最後の挨拶をと相手にそんな心の内を仄めかす言葉をくちにすると突然相手の胸板をどんと強く押して。その反動で揺らぐままに自分の身体を傾けていき、あの日相手が転落した時と同じように自分も記憶を投げ出せるように祈りながらその身を投じて。)
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