鈴仙・優曇華院・イナバ 2013-01-29 21:02:17 |
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「えぇ……でも、ちゃんと元通りにするよ。河童なめんな」
「痛い、痛いから、キュウリを鼻に詰めるのはやめてくれ」
しなびたキュウリは地面に植えつけられた。
ふんふん鼻を鳴らす霖之助を睨みつけるにとりも、女の子の姿をしているとはいえ一応は河童であるから、半人半妖といえどもろくな戦闘能力を持たない霖之助が彼女と力比べをしたところで到底敵うわけがない。
だから、霖之助は考えた。
「尻子玉抜いてやろうか! やり方よくわかんないけど」
わからないらしい。
時代は変わった。
「わかった、わかったよ……じゃあ、僕から君への宿題だ」
怪しげな手付きを見せるにとりを一旦放置し、店内に引っ込む霖之助。その隙に香霖堂を制覇しようと店内に飛び込んだにとりだったか、何か、とても硬くて角張った物に遮られて「ぷぎゅっ」と跳ね返された。
「ん、いま、膨らんだカエルが踏み潰されたような音が……」
「だ……だれがカエルよ……」
「あぁ、河童か。似てるから間違えた」
「色だけじゃないのよー……」
鼻っ柱を押さえるにとりの前に、霖之助は腕に抱えていた物をどかっと無造作に置いた。
それはやたら角張っていて見るからに硬そうな箱であった。表面は滑らかで、小さな穴が空いている箇所もあるが、おおよそは灰色の素肌を晒したままである。付属物はやたら多くのボタンが配置された板で、巨大な箱と紐のような物で繋がっている。
これが、霖之助がいうところの宿題であるらしい。
「これが、僕から君に送る宿題だ」
「これ……なに?」
流石のにとりも、初めて見る物体だった。不意に工具を取り出しかけるが、霖之助の手前、好き勝手に行動することもできない。
うずうずする。
「これは外の世界における式神のようなものでね。名をパーソナルコンピュータ、用途は簡単な命令でありとあらゆる情報を集め、計算するというものだ。が、使い方はわからない」
「ふむ……」
にとりはそのこんぴゅーたとやらをぺたぺた触りながら、コイツをどう分解してやろうかと心を躍らせていた。瞳は爛々と輝いている。嫌な予感がした。
「そこで、だ」
霖之助は、あぁ、コイツもう他人の話なんて聞いちゃいないんだろうなあと思いながら、ポケットに手を突っ込んでいるにとりに告げた。
「これを綺麗に解体し、そして元通りに組み立てることが出来たら、香霖堂の品物を分解、再構築する許可を与えても構わない」
「…………え、何か言った?」
聞いちゃいなかった。
霖之助は諦めて、ひらひらと手を振る。
「いいから、それを持ち帰って好きに扱ってくれ。店に飾っても場所を取るだけだからね、暇潰しになるなら君みたいな好事家に預けた方がいくらか役に立つ」
「じゃ、分解してもいいのね」
「ん、まぁ、そうだが――」
言うが早いか、にとりは霖之助がへーこら抱えていたこんぴゅーたをひょいと持ち上げ、物凄い勢いで香霖堂を後にした。駆け抜けた後の地面から程無くして砂埃が立ち、嵐のような、河童に例えるなら洪水のような来訪劇は、河城にとりの性癖に付けこむ形で一応の結末を見た。
しん、とする。
河童一人いなくなっただけだというのに、穏やかなものだ。
「やれやれ……」
誰もいない空と大地を見渡して、天から降り注ぐ日差しに目を細める。
眼鏡のレンズ越しに映る太陽の輪郭はくっきりと、眩いばかりの輝きをもって湿気た霖之助を照らし出していた。
後日、香霖堂を訪れた河城にとりは、甲羅かばんに入れたこんびゅーたを自信満々に取り出してみせた。
見事に分解し綺麗に再構築したと語るにとりを前に、香霖堂店主・森近霖之助は、
「しかし解体して修復したという証拠が無い。これではいけない」
として、店内にある物品の解体許可を与えなかった。
憤慨したにとりが霖之助の服を解体し始めたところに顧客である霧雨魔理沙と博麗霊夢が姿を現し、一つや二つの悶着があったのはもはや語るまでもないことであった。
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