鋼のこころ 〆

…大した事じゃあねーんだけど。

（いざ話を切り出そうとすると言葉に詰まり、取り敢えず相手と向き合う様に椅子に座る。そしてズボンのポケットに右手を入れて茶色のリングケースを取り出し、開けた状態で彼女の前へ差し出せばダイヤが埋め込まれた婚約指輪が一つ。?を掻き照れ臭そうに一度は視線を逸らすも、再度しっかりと相手を真剣な表情で真っ直ぐ見つめて）

告白しただけで渡せて無かったから、さ。
…受け取ってくれますか？

…！
…アンタ…急なのよ…ほんと、っ。

( 真剣な様子の相手と、目の前に差し出されたケースに指輪が入っていることを確認すると、目を丸くして。少し間が空いてから、目から溢れんばかりの涙が零れ。驚きと嬉しさが入り交じったなんとも言えない感情が溢れ、涙は止まらず。｢タイミングおかしいでしょ…｣と、口から出るのはそんな言葉だが、本当は嬉しくて嬉しくて堪らず。)

！？ど、どどうしたんだよ？気に入らなかったのか？
デザインがイマイチとか？それなら明日店に──

（彼女の涙を見て、それが嬉し泣きだとは知らずに慌てふためき。これでも結構真剣に選んだのだが。泣いている理由が何なのかと顎に手を当て思考を巡らせ＂アレも違うコレも違う＂と忙しく頭を悩ませる。女心というものがまるで分からないと結局答えが見つからずに見当違いな事を言い出して）

ちがうわよっ！
嬉しくて泣いてるの…っ。

( この涙の理由が分からず慌てふためく相手に、首を振って。デザインなんかどうでもいい。自分の為に相手が選んでくれたという事実が、また涙を溢れさせる。手でその涙を拭いながら、涙をおさえて、｢ありがとう、凄く嬉しい｣と少しだけ笑って礼を言い。こんな素敵な指輪、もったいなくてつけられないな、なんて思いながらも、相手を見て。)

…ねぇ、指輪つけてくれないの？

！──そっか、良かった。

（嬉し涙なのだと知れば、心底ホッとする。同時に的外れな考えをしていた自分の未熟さに、＂なんかスゲェ恥ずかしい＂なんて内心で思う。また指摘されれば「…左手、貸してくれ」と相手の前に自分の左掌を広げて手を差し出して）

ん。

( まだ若干濡れた目を擦りながら、左手を相手の手へと差し出して。ドキドキと高鳴る鼓動が今にも手から相手へと伝わってしまいそうで、自然と頬を染めて。指輪をつけてもらうという行為がこんなにも緊張するものなのだろうかというくらい、身体は緊張の色を示しており。)

──これから先、色んな事があると思う。楽しい事も大変な事も、喧嘩だってするかもしんねー。でもその全部をお前と一緒に乗り越えていきたい。

（相手の手が触れると緊張するも、婚約指輪を右手で取れば左手の薬指にそっと指輪を嵌めて安堵の息を吐く。相手の手を握ると再度相手を真っ直ぐに見据えて）

…、うん。
あたしも、エドと一緒がいい。
( 指にはめられたその輝きにまた瞳を濡らすと、相手の真剣な表情を此方もじっと見つめ返し。話を終始潤んだ目で聞くと、最後に少しだけ微笑んで。自分も同じだという気持ちを言葉と、握られた手を同じくらいの強さで優しく握り返して伝え。相手とならどんな困難も乗り越えられるそんな気がした。)

ッ──これからもよろしくな、ウィンリィ。

（握り返された手と彼女の表情にドキッとして照れ臭くも笑みを浮かべて。これから先はただの幼馴染で気になる人ではなく、家族であり大切な存在になるのだからと今更かも知れないが改めて伝え。）

うん、よろしくね、エド。

( 相手の言葉に改めて挨拶をし返す。今までも相手とは家族同然の付き合いをしてきたが、これからは本当の家族として相手と共に人生を歩んでいくのだと再確認する。こんなに幸せな瞬間があっていいのだろうか。再度手元に光る指輪を眺め思ったことを1つ。｢指輪、高かったんじゃない？｣ と尋ね。)

そんなの気にしなくて良いって。

（握っていた相手の手を離して質問に答える。国家錬金術師の頃、それなりの額の給与を貰っていた事とその時に掛かった様々な金額は必要経費の名目で軍側に請求していた事もあって殆ど使っていない。それに金額よりも渡せた事と彼女の喜ぶ顔が見れたのだからそれで良い。
緊張していた事もあって喉が渇き、席から立ち上がると「何か飲むか？」と問い掛けて）

ん。
飲む。水でいい。

( 確かに相手は元国家錬金術師。それによく考えると指輪より機械鎧の方が高いかもしれない。値段より自分の為に選んでくれたことが嬉しくて仕方ない。なんて考えながら、先程まで涙していたこともあり、こちらも喉はかわいていたため、立ち上がった相手を見て水でも飲むかなと、お願いして。)

分かった、取ってくる。

（頷くとキッチンへ行き、棚からコップを二つ取り出してシンクへ。それぞれのコップに水を汲み、リビングへ戻れば一つは彼女の前に置いて自分も席に座り。両親にも彼女と家族になる事をきちんと報告したいと切り出して）

母さんと親父にも報告したいんだけどあとで一緒に行かないか？
もちろんウィンリィの両親にもさ。

うん！
お花持ってかなきゃ。

( 水をもらうと｢ありがとう｣言って受け取り、コップに口をつけ一口飲めば、少し先程までの興奮は落ち着き。相手から｢報告｣という名の墓参りに行くことを誘われると、了承の意を伝えて。定期的にエドの両親、そして自分の両親の墓参りには行っているが、2人揃っていくことは、中々ない。｢報告｣となると、色々な人に伝えないといけないな、なんて思いながら。 )

ばっちゃんにも帰ったら報告しなきゃ。
あ、アルもね。

アルには一応前に伝えたから知ってるぞ？
──あれ、言ってなかったっけ？


（彼女に告白した後、弟と連絡を取り合った時に流れで伝えており。此処でふと考える。そういえば弟に伝えた事実を相手に話していなかったかもと然程気にしてない様子で問い掛けて、水を一口飲み。先程夕方に出かけて行ったばっちゃんは、もしかしたら勘付いているかもしれないが。他にも伝えなきゃいけない人物を思い浮かべれば）

師匠にホークアイ中尉やハボック少尉だろ、それと少佐……あと大佐…いや今は准将か。やっぱり報告すべきだよな、はぁ…。

（身近な人間から名を上げていき、最後の一人の名を出す直前には思いっきり嫌そうな顔をしてため息を吐き。この手の話になると何かと揶揄ってくる様子が容易に予想出来、どうしたもんかと葛藤。軍の中で言えば、良い意味でも悪い意味でも一番世話になった人物で。）

あれ？そうだったの…。

( アルがもう知っているということには、そうだったのかと少し驚き。それで、さっきの電話の最後に｢2人でゆっくりしてね｣なんて言ってくるわけだ。妙に納得しながら話を聞き。あと相手が報告しなければならない人物リストを聞くと、やはり軍の関係者にはお世話になっているので報告は必要なのだろうと思うと同時に、その関係でヒューズ中佐のことを思い出し。よく考えると墓参りに行けていないこともあり、そこも訪れたいと伝え。ヒューズの妻と娘のエリシアにも会いたい。)

ヒューズ中佐のとこにも報告いかないとね。
グレイシアさんとエリシアちゃんにも会いたいし。

そうだな、中佐が一番喜んでくれるかもな。

（ヒューズ一家に会うのもいつ以来だろうか。仕事も沢山ある中、しょっちゅう見舞いに来ていた中佐の事を思い出し生きていたら軍の誰よりも祝福してくれたかも知れない、なんて思うと笑顔で喜んでくれる姿が容易に想像出来て思わず表情が綻び。）

…じゃあ、機械鎧修理ができたら2人で中央(セントラル)にでも行ってくる？

( 相手も自分と同意でヒューズ一家に会いたいと思っていることを知ると、マスタング准将たちも中央に配属されていることだし、2人でみんなに挨拶に行くのもいいな、なんて思い。ただその為には機械鎧を早く修理しなきゃいけないな、と笑いながら水を一口飲み。先程墓参りがてら報告をしに行くと言っていたが、この後一緒に行くかどうか尋ねて。)

…さてと、それじゃあお墓参りいく？

ああ。けど他にも仕事あるんだろ？
予定は合わせるし、落ち着いてからでも構わねーぞ。

（機械鎧の修理後に行くとしても、相手も技師として他にも客を持つ身。一度は賛同するが急ぎの仕事もあるかも知れないと気遣い、ある程度片付けてからでも遅くないのではないかと提案。
夕食を終えてからだいぶ時間が経った事もあり、窓の外は日が落ちて暗い。暗い中墓参りに行くよりも、明るい昼間に行く方が足元も見えるし安全だと考えれば）

…いや明日の昼間にしよう、もう暗いしな。

そう？
まぁ、じゃあ今の仕事が一段落したらね。

( 相手がこちらの仕事を気遣ってくれていることが有難い。確かに自分としても仕事を中途半端にして行くのは心苦しいので、やはり仕事をきっちり終わらせてからにしようと思う。立ち上がると｢今日は早く休んでね｣ と、自分と相手のコップを流し台に持っていくと洗い。墓参りと思ったが窓の外が思いのほか暗くなっていることに気付くと、明日でもいっかと頷いて。)

ほんとだ。もうこんなに外暗くなってたんだ。