掲示板ファンさん 2023-08-25 23:22:35 |
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【柏葉 立夏】
帰りは極力人通りの少ない道を選んで、だいぶ遠回りすることになった。蓮が獣の耳と尻尾を他人に見られたくないと言うのだから仕方ない。尻尾は服の中にしまってどうにか隠せたものの、頭頂部の獣耳を隠せそうなものは持ち合わせていなかった。やむを得ず、蓮は自分の手で獣耳を覆いながら歩き続けていた。
恋人らしく家まで送り届ける……なんて考えたこともなかった。同じマンションに住んでいるため、意味のない気遣いだと思っていたからだ。蓮が住んでいる二階に着いたら、そこでバイバイしていいだろう。幸い、マンションの階段や廊下でも他人と遭遇せずに済んだ。だが、二階に着いても蓮は手を離そうとしなかった。むしろ、ぎゅっと強く握ってくる。
「なに?」
「今日はお家帰りたくない…」
「……は?」
一瞬、時が止まった。いや、自分がフリーズしただけか。
「そんな爆弾発言、どこで覚えてきたんだよ。諏訪の野郎か?」
「ううん、諏訪ちんは関係ないよ。ただ、ちょっとね…獣になっちゃったこと、お父さんに知られるのが怖くなっちゃって」
蓮が俯きがちにぽつりぽつりと話す。見るからに不安そうな様子の彼になんて言えばいいのかわからず、「そうか」と一言返すのが精一杯だった。蓮もおじさんも、当時と比べてメンタルはほぼ正常に近い状態にまで回復しているが、まだ獣のトラウマが完全に癒えた訳じゃない。慎重になるのは当然のことだ。では、これからどうすればいい? 俺が蓮のためにできることは……
「帰りたくないなら、俺のウチ来る?」
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