掲示板ファンさん 2023-08-25 23:22:35 |
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【柏葉 立夏】
「りっか……りっかぁ!」
嗚咽交じりの声で名前を呼ばれる。が、無視して無理やり唇を塞いでやった。蓮にはいつも笑顔でいてほしいんだけど、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。というか、尋常じゃないくらい興奮する。なんでだろう。以前なら肩に手を置いて軽く唇に触れるだけで満足できたのに。今は舌を絡め合うほどの深い口づけがしたかった。逃げようとする蓮を抱き寄せて、口内に唾液を流し込む。もちろん、彼は涙目で嫌がっていたけれど、結局観念して飲み込んでくれた。そこで唇を離すと、蓮は赤くなった顔(二つの意味で)をこちらに向けてわめき始めた。
「何すんの! 苦しいでしょ!」
「は? お互い様だろ。こっちはお前に背中をざっくりやられたんだし」
「そ、それはごめんだけどっ!」
「てか、いつの間に人間に戻ったんだ? さっきまで人の言葉も話せてなかったじゃんか」
ふと疑問を投げかけると、蓮はハッという顔をしてから、口元に手を当てて考え込んだ。獣から完全な人間に戻ったわけではなく、黒い犬のような耳や尻尾が後遺症として残っているのだが、それを除けばほぼ元通りに見える。
「記憶があやふやだから断言はできないんだけど……立夏の血の匂いを嗅いだ時にね、自分が人間だったことを思い出せた気がするんだ。そのあと、キスされたら体も記憶も元に…って、そだ! 血! 立夏、血! 救急車呼ぼう!?」
「うるさ…そんなに騒ぐなよ。これくらい唾つけとけば治る」
生まれつき自然治癒力がかなり高い体質だから、今回もすぐに治ると思う。比喩だと思われがちだが、RPGと同じで一晩休息をとれば全回復する体だ。それでも、蓮がパニックになっているのは怪我を心配しているからではない。血が苦手だからだ。
「いいから、もう帰ろうぜ。明日早いんだし」
「明日? あっ、学校どうしよう!? 耳と尻尾、明日までに取れるかな?」
「獣化の後遺症は個人差あるけど、最低でも一週間はそのままだな」
「ふえぇ……!」
ずっと小声でどうしよう、どうしようと呟き続ける彼の手を引いて公園を後にする。背中の傷の痛みはほとんど感じなくなっていた。天使も空気を読んでいるのか静かだ。日常を取り戻したことに一安心しながら帰路につく。
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