掲示板ファンさん 2023-08-25 23:22:35 |
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【柏葉 立夏】
「迎えに来てやったぞ。ほら、早く帰ろうぜ」
平静を装い、普段通りに話しかける。しかし、夜の闇よりどす黒い霧の中から聞こえてきたのは、蓮の声とは似ても似つかない獣の低い唸り声だった。霧が揺らめく瞬間、僅かに目を見張る。
もやもやと宙を漂っていた黒い霧が集まり、まるで狼のような輪郭を形作っていた。再び獣が唸り声を発する。言葉は解らずとも、殺意を向けられていることだけははっきりと理解した。人間としての理性を失った彼に、説得という平和的解決のための手段は最早通用しない。獣から目を離さないまま、静かに鞄へと手を伸ばして護身用の投げナイフを掴む。
「せっかくのデートが死闘になるなんてな」
と小さく呟いて顔をしかめた。先に動いたのは獣だった。勢いよく一直線に突進してくる獣に対し、右方向へ跳んで回避する。すぐさま体勢を立て直し、ナイフを構えたが、獣の姿はどこにもなかった。暗闇に紛れて姿をくらませたらしい。己の荒い息遣いと耳障りな天使の声だけが聞こえる。
『殺せ』
『哀れな獣』
『殺せ』
『殺せ』
うるさい。苛つくあまり、舌打ちしてしまう。と同時に真後ろでヒュンと風を切る音がした。
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