匿名さん 2023-04-29 15:14:24 |
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─── …よかった。
( 〝美味い〟と、彼の優しいテノールの呟きが鼓膜を揺らせば、まるで春の花がじんわりと咲くようにパッと微笑んで。昨日彼と作ったばかりとはいえ、人生で初めてのひとり料理。形が崩れたり指を切ったりと失敗こそあったもののこうしていちばん美味しいと思って欲しい人にそう言って貰えたのが嬉しくて、椿はなにだかふわふわと宙に浮かぶような気持ちになって。これで一安心だと自分も箸を取れば、彼に続くように少しずつ食を進めて。この調子ならばきっとほかのお料理もひとりで作れるようになるかもしれないと、御屋敷の中に料理の本がないか今度探してみようと思案してはもうすっかり指先の痛みや朝の妙な怠さのことは忘れてにこにことご機嫌そうで。「 早くほかのお料理も作れるようになりますね 」と、寝起きのぽやぽやとした可愛らしさはすっかりなりを潜めてしまった傾国の美丈夫にふわりと微笑みかけては、こんな風に穏やかな朝が毎日来たらいいのになあとぼんやり思って。 )
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