匿名さん 2023-04-29 15:14:24 |
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……どうぞ。
( ふかふかのベッドで横になる気にもならなければ、乙女らしくしくしく泣くことも感情に任せて怒り狂うこともない。言わば今の椿は無であった。花街で〝椿人形〟と呼ばれていた美貌からスッカリ色を消し、能面のような顔でただひたすら窓辺の椅子に腰掛けて月を見上げているだけで。控えめなノックの後に聞こえたまるで母に叱られている子供のような声にぴく、と先程まで1ミリも動かなかった眉を動かして。彼の問いに答える声は相変わらず色のない無機質な声ではあるものの入室の許可を。何時もなら返事をする前に自分が開けるだろうし、彼の屋敷なのだからそもそも入室の許可を得ることなどおかしな話なのだが。部屋に入ってきた彼は先程の女の匂いはせずただただ石鹸の優しい香りと華やかな香りだけで、だがそれでも椿の鼻腔に残った女の香りは消えることなく一瞬だけ眉を顰めた後に怒りを分散するように小さく息を吐いて。 )
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