匿名さん 2023-04-29 15:14:24 |
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( さて。彼が仕事に出たとなれば、この屋敷は椿の仕事場へと早変わりする。椿は改めて自身の浴衣をたすき掛けし直せば、そういえばおハナさんがくださった服の中に可愛いエプロンがあったんだと思い出し、クローゼットの中からふんわりとした白地にフリルの着いた可愛らしいエプロンを着けて気合いは十分。まずは掃除から取り掛かろうと、掃除は上からやっていくのよ、なんて遊郭の婆たちが言っていた所謂〝おばあちゃんの知恵〟を駆使して自分たちの廓よりもずっと広く美しい屋敷を上の方からホコリを叩いて、窓を拭いて、それから床を磨いて、慣れない手つきながらも一生懸命掃除をしていく。…途中屋敷が広すぎてめげそうになることもあったけれど。マァそうこうしているうちに先程まで頭のてっぺんにあったはずのお天道様は沈みかけている頃で、これはいけない!とぱたぱた風呂場へと走れば頼まれていたお風呂掃除を初めて。改めて見ても自分が足を伸ばしてもまだ余る広い浴槽は実に磨きがいがあり、あわあわもこもこに塗れて浴槽をご機嫌よく鼻歌も歌いながら磨いているうちに帰宅した彼の〝ただいま〟の声は慕っている相手の優しい声を決して逃さない乙女の耳が器用に拾い上げて。まだ浴槽を流せてはいないけれど兎に角御出迎えをしなきゃ!と掃除に一生懸命なうちに解けてポニーテールのようになった髪やら頬やらに泡を付けながら「 おかえりなさいませ! 」と玄関へと駆けていき。視界に彼を入れてぱっ、と蘇芳の瞳を輝かせたのも束の間、鞄を預かろうと手を差し出したところ彼の手元にある家を出る際にはなかった包みに目線が行けばキュ、と形の良い眉が顰められて。 )
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