匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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……手伝い程度なら。
(比較的手先が器用で覚えが早く、そして他の子供達よりも扱い易かったためだろう。食材を切ったり火を見ていたりと局所的ではあれ養母達に食事の支度を任されていた記憶を振り返っては、顔ばせを僅かに強張らせたまま硬い音吐で一部肯定し。というのも自身の手のみで調理した品を他者に供するのはこれが初めてのことで、更にその相手が謎に包まれた魔術師の主人ともなれば緊張もひとしお。彼が味に言及するまで膝上で固く結ばれていた両拳は、まずまずの評価を受けることで雪解けと共に開く花弁のように緩んで。気掛かりが氷解してはその後の指南もするすると頭に入り、肩の力こそ抜けつつも正した姿勢で真摯に耳を傾け。要点を漏らさず心に留め置けば、突き付けるような喫食の促し方に〝はい〟と答えるべきか〝いいえ〟と答えるか迷った末、右手をカトラリーに、左手を器の縁に伸ばすことで返事に代え、つい今し方別の引き取り先を仄めかされたにも関わらず対面のその人の好みを舌で覚えるように少量を口に運ぶ。そうしてペースを乱さずに黙々と食べ進めるうち、端に移動させた教本の書影から主人の自室の本棚を、本棚から今朝の決心を思い出すと、三分の一程に減ったシチューの中にスプーンの先を沈め、奴隷の身分で要望を口にする僭越さと頼み事の不慣れさ故にぎこちなく言葉を選んで)
……あの。お借りしていた部屋と一時中断していた作業ですが、もう体調も万全なので、以前のように戻していただけると……有り難いです。
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