匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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お前、ここに来る前に料理の覚えでもあったのか? ……まぁ、及第点だ。良くも悪くも無難な代物だが、塩気はもう少し足して良い。ここを移って調味料の類いが気安く手に入らなくなるようなら、少量の塩と安価な香草辺りで代用を――。
(まずはお手並みを拝見、という程大仰なものではないにしろ。初対面時に手先の器用さを口にしていただけあって、調理にさして逡巡や危うげな様子も無く、滞りなく眼前へと出来立ての食事が差し出されて。ほこほこと暖かな湯気が立ち、ミルク色に浮かぶ具材が鮮やかにつやめくそれに、ふんと外観だけは妥協の吐息を零しつつ洗練された所作で木のスプーンを差し込み口元へと運ぶ。胃の腑へ染み入るような素材本来の物を活かした温もりは淡白ながら優しい味付けで、初心者にしては上出来以上の質であるのは勿論のこと、参照したレシピについても恐らくは万人受けする品だろう事が容易く推察され。しかし、伊達に上流階級にて肥えた舌はそうそう衰える物ではないらしく、主に市井の庶民向けらしき料理本の教示する内容に少し以上の素朴さを覚え。当時の卓上を彩る品々と彼用の食材を仕入れる際に覗いた市場の状況とを鑑みて、食器を下ろしては畑違いではありつつも出来うる限りの助言に淡々と努め。彼が裕福な養子元か善良な孤児院にでも身を収めるならばより適した教育を受けられるだろうに、つい余計な講釈を長たらしく垂れてしまうのは、少しでもこの霞が如き存在感の少年に自身で身を立てる力を付けさせようという屈折した老婆心故か。そうしてひとしきりの教授を終えると、二口目に取り掛かる前に相手の皿を一瞥し、偏屈な態度を保ったまま彼にも食事を勧めるだろう)
……お前もそろそろ手を付けたらどうだ。それとも、朝食の保温程度に俺の魔術を使わせるつもりか?
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