匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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……は、所詮はガキだな。
(よもやこの少年が進んで己を頼るわけがないという前提から導かれた推測は僅かに的を外れ、目前には如何にも心許なげに幼い青緑の瞳が揺れていて。……歳の割に大人びていて無機質な彼の、こうも弱々しい姿を見ると今日はどうにも調子が狂う。一先ずはそう大事なくて良かったと言うべきか、と表面上は半ば呆れたように安堵混じりの息を吐くと、少々粗暴な仕草で先刻までの椅子に再び腰を下ろして。続け徐に机上へと手を伸ばしては、中央のキャンドルはそのままに、散乱する魔術書を丁重に脇へ、最後に今朝方彼へ渡した画材の残りとして転がっていた細長い木炭を手に取り。元より寝起きの頭の回転はそう宜しい方ではなく、あまり本調子でない分より一層の不機嫌さを湛える金の瞳で"座れ"とのみ低く真向かいの席を促して。相手がそれに応じたか否かに関わらず、机上を大きなキャンバスと見立てるや否や、迷いのない手付きで黒の文具を滑らせ始めるだろうか。時折古代の文字列や異質な図形類を挟みつつ、恐ろしく精緻かつ滑らかに机面へ構築されていくのは精神干渉系の魔法陣。本来この手の魔術は相当に高度な部類に当たるといえど、さして抵抗力もない相手に安眠を与える程度であれば、この少々婉曲な魔法陣などより直接記憶を読み解き支配するような魔術の方がいっそ効率的ではある。しかし、そうずかずかと人の繊細な領分へ無遠慮に踏み入る趣味はなく、朝方のように一時的に意識を支配するのも根本的な解決には縁遠い。よって少々迂遠な手法となる最後の一角を引き終えた手を止めては、決して多くを語らぬ眼差しで相手をじっと見据えて)
……お前が心安らぐ場所は、物は、人間は。心の安寧は何処にある。抽象的に胸の内で思うだけでも良い、陣に触れて唱えてみろ。
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