匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(見上げた視線の先の主がふいに身を屈ませ顔と顔の距離が近付くと、僅かながらに瞳孔が開く。正面から見据えられたせいか、彼の金色の瞳が持つ妙な迫力のせいか、視線を惹きつけられたまま、まるで何かにそうさせられているかのように告げられた命に無言のままこくりと頷いて。代金を受け取ればもはや用済みとでも言うように途端に口数の減った商人の方には一瞥もくれぬまま、重い足枷を引き摺るようにして主人の後をついて歩く。半年以上付けられたままの足枷の感覚は身に馴染むとはいえ、彼に追いつくには〝足枷〟の名に恥じぬその機能を充分に発揮していて、それでも奴隷が主人の行動を制限するわけにもいかず、懸命に足を動かす。これからどこへ向かうのか、どのくらい歩くのか、どうして自分を買ったのか。歩を進めるうち、幾つか聞きたい事が頭に浮かぶけれど、そのどれをも口に出さず、ただ無表情に付き従うのみ。黒いローブを纏った背中に追いつく事ばかりを考えていたせいか、場にそぐわぬ不自然な金属音にも、自身に迫る足音にも気が付かずに)
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