匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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……そうか、まぁ大人しくベッドで安静に出来るならその方が良い。――ふん、腹の方は満足か。
(慎ましやかに丁重に、けれど順調に進められていた食事の手は、先の返答に暫し遅れ停止して。薄らと喜色を湛える瞳と、無事底を晒す白皿へ密かに胸を撫で下ろしつつ了承と共に腰を寝台から浮かせ。陽が落ちかけ、長く濃く伸びる影に同化するような黒衣の裾を揺らし傍らの机へと歩み寄れば、温度のない鋭い金の双眸で眼下の相手を捉えて。実際何を思考しているのかと言えば、ただただその身を案じる変わらぬそれではあるのだが、あまり善意を公に晒せない性分と対人経験の乏しさが遠回しな物言いに拍車をかけ。軽々に目前の額に触れ熱を確かめる事すら叶わぬ手は机上へ、暖かみのない薄い唇は嫌味な文句を舌に乗せて冷然とした音を発してしまう。しかし、致命的なまでに自尊心の欠如する危なげな彼を捨ておく事はやはり出来かね、一応はまともに食事程度は取れるようになった相手への過干渉を危惧しつつ、最も難解な魔術書を紐解くようにキツく眉根を寄せて。病の魔の手を易々と及ばせてしまった責と深い悔悟も手伝い、後にぼそりと躊躇いがちに付け足されたそれは、当初相手との間に設けた筈の見えない線引きを僅かながら踏み越えようとするもので)
その阿呆ほど矮小な欲心を満たしたなら、さっさと飲み物の方も片付けて布団に戻るんだな。……まだ他に要求があれば、精々俺の気が変わらない今の内にでも言っておけ。
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