匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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お前……だから、もう少しまともな欲心をだな――はぁ。まぁ、良い。……治ったら覚えてろよ。
(何時にも増して、感情どころか魂すらすっかり抜け落ちた無色の面貌。それが己の問い掛けにより動き方を思い出したようにそろりと身じろいだかと思えば、小さな唇から発されたのは朝方見かけた品と同一の名称で。特段目立った食の嗜好はないと耳にした記憶もあれば、あからさまに不自然なチョイスにぐっと眉間に皺を寄せ、半ば呆れ混じりの吐息が漏れる。とはいえ、普段あれ程頑なに突き放した態度を取っておきながら、こんな時ばかりはもう少し気を許して悠々と寛げというのも大概相反した望みか。苦々しく眉の形を変えつつ数多の文句を胃の腑に戻すと、相手の食事事情については今後徹底的な矯正を施すとして、今はやたら物言いたげなじとりとした眼差しを最後に扉の奥へと消えるだろう。数十分後、簡単な軽食にしては少々冗長な時間と、およそ調理の音ではない憤懣混じりの派手な魔術の発動音を幾多経て。さすが少しの疲労感を滲ませた仏頂面と要望の品を引っ下げ、ようやく自室の扉をノックもなく潜った次第で。湯気の立つ暖かなミルクと共にトレイ上で僅かに揺れるそれは、見た目こそレシピ本を彩る絵柄と歪なまでに同一の小綺麗なもの。ただし、"適量"などという甚だ曖昧な調味料の記載や火加減の調整諸々に懊悩し、最早一から再構築した方が早いとばかりに内在物質を分子ごと総入れ替えした結果、栄養や味は一般的なそれよりも上等でありながら実質はフレンチトーストもどきの合成食糧と化して。堰を切ったように堪えきれぬ文句を一方的に垂れ流しながらも、窓辺に佇む相手へ手中の物を差し出す際には、盛大に尾を引く悪感情を僅かに収める気配を見せるだろうか)
~ったく、何だあの入門書を謳っておきながら何かと曖昧な語句の数々は! あれなら放恣放埓無秩序な妖精語の魔本の方が余程……、何だ、寝ていないのか。まぁ何はともあれ物は出来たぞ。……そこの机か、あるいはまだベッドの方が食べ良いか?
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