匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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……フレンチトースト、を。
(静寂の満ちる廊下に在って、音の発生源を特定することはそう難しいことではないだろう。ましてそれが近傍で鳴ったのなら追及の必要すら無いのか、案の定易々と看破されては今し方メデューサの呪いから解き放たれたかのように漸くぺたんと下げた足の踵をついて。予測のしようもなく、故に当然対応の準備などあるはずもない出来事に未完遂の仕事も奴隷としての振る舞いも頭から抜け落ちてしまうと、キッチンの方向へと身を翻した主人に問われるまま放心状態で要望を零す。レシピ本を目次から数頁捲ったところに載るそれは本日の朝食であり、また昼も夜も食卓に据えるはずだった品で、咄嗟に浮かんだものがそれだけだったのだとしても、帳尻を合わせるかのように無意識に予定通りを選び取った背景には何かしらの感情が透けるだろうか。食事の用意の為に奥へと消える主人の姿を見送ったのなら、未だ自身の腹の音が揺曳しているようにさえ思われる廊下を後にし、少し前に閉じたばかりの扉から主不在の部屋へと先んじて入室する。そのまま暫しドア前で棒立ちして中を見渡すも、いつまでもそこに居るわけにもいかず、窓辺に寄ると何処か遠くへと思いを馳せるように一番星の輝きだす空を眺め。しかしドアの開く音が聞こえたのなら、そちらを振り返ると同時に我に返り、全くの元通りとまでは行かずとも茫然自失の状態からは脱しているはずで)
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