匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
通報 |
(魔石より放たれる淡い光を受け静穏を湛える瞳は、厚くなった瞼を瞬かせる間に一層その色合いを強めたようだった。表情全体を覆っていた他者を圧倒する威圧的なまでの迫力は鳴りを潜め、口許には微笑すら浮かんでいる。しかし、珍しい気象現象でも眺めるような心持ちで上向きの口端に目を奪われていると、それはもう一つ瞬いた途端にふっと消え去り。字義通り瞬く間の出来事に発熱故の幻覚を疑うも、力任せに引き剥がされるかのような速度で遠のいてゆく頭部を見送ればどうやらそうではないらしいと分かる。尊大に腕を組んだ主人は彼の中に描いた自画像に基づいて振る舞うことで一連の言動を帳消しにする算段と見え、垣間見えた表情よりも魔術以外に主人の心を揺り動かす事柄が存在したことに小さく驚きつつ、ここは何も言わない方が上策かと黙したままで。それは単に口に出すべき言葉が見つからなかっただけでもあったのだが、選択は結果的に功を奏したらしい。長く膠着状態が続くことはなく、鋭い視線が突き刺されては矢継ぎ早に繰り出されるのは紛うことなき〝凡愚如きには分不相応な待遇〟。自らが口に出したそれを体現するかのようにあれこれと気を配る彼にどう返答するべきかと思案するも、自身の不調が主人にとっての不都合であることが殆ど確定事項となった今、回復を図ることが自身にとっても最優先事項であり。しかし困ったことに要求を十二分に叶えられ、心地良い温度に保たれた部屋の中で特にこれといって欲するものが思い付かずにいれば、代わりに口にしたのは〝今のところは特に〟〝食事は眠った後に摂ります〟〝そういえば〟といった段階的な接続文を全てすっ飛ばしてしまったためにまるで脈絡のなくなった質問。当然のように食卓机に置かれていて尋ねる機会を逃し続けたそれについての疑問を、一応は朝の食卓の風景から連想して声に出すと、宙に浮いているようなふわふわとした声色と時折落ちかける瞼によって睡眠の如何についても言外に滲ませて)
……リヴィオ様がいつも食べているあれは、何ですか?
トピック検索 |