匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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当たり前だ。……と言いたい所だが、少なくとも数日程度はここで静かに寝ているんだな。またぶり返して倒れられても堪らない。
(息をするにも少々辛そうな呼吸音に、布団から覗く頬は熟れた赤い果実のように色付き、その額には薄らと脂汗が浮かぶ。本来なら己の世話になるなど許さないだろう相手が、こうして大人しく介抱されている事のみを取り上げても病態の悪さは推して知るべしだろう。決して言葉にはしない自責の念に唇を引き結び、無言で腰を上げて空のコップを机の上へ片付けようとした折。背後にある布団の中からそっと掛けられた言葉は、弱々しくもこんな時にまで気遣わしげなもので。それは相手の想いとは裏腹に自身の胸を突き、質の悪い病毒のように深く心を苛む。……病身の子供が大人に気を遣うような現状など、やはり早々にどうにかしてやらねばなるまい。未だ引き取り手を見付けられぬまま今日を迎えてしまった苛立ちを諸共に返答として吐き捨てると、軽く寝台に手を付いては純粋な憂色を幾重にも覆ったへそ曲がりの付言を面と紡ぎ。そのままもう一方の手に取ったタオルで相手の額に浮かぶ汗を所作だけは丁寧に拭ってから、枕元へと持参した魔石を設置して。正確には魔氷石という、幾つもの細長い六角柱の水晶が根本で結び付いた独等な形状の小石へ手をかざせば、薄く青みがかった内部へ水が流れ込むように鮮やかな群青が渦巻き、淡く淡く柔らかな光が灯る。それは相手の頭部周りにある空間の気温を限定的に下げる効果をもたらし、熱病の自覚症状を多少なり和らげてくれる筈で。その冷感の加減を寝台に手を付いたまま少し身を乗り出して微調整しつつ、丁度真下の位置にある相手へ不意の問い掛けと視線を落とし。はたして魔石が発する仄かな光の加減か、普段は猛禽類を想起させる鋭い双眸が、病床に伏した相手を見下ろす今だけは少しだけ暖かく、蜂蜜のようにこっくりと溶けるようで)
――ん、……温度は丁度いいか?
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