匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
通報 |
(掛布団を捲らんとする動作を声音のみで制され、手を止めた次には未だ自身の体温の残る寝台へと体を押し戻される。後頭部を枕へと沈めながら往生際悪く口を開きかけるも、間髪入れず放たれた警告に如何なる音も発することなく両唇を閉じ合わせ。やがて物音の立たなくなった部屋の空白を埋めるように学者調の語り口で病状の説明が始まれば、軽い症状に胸を撫で下ろすどころか胃に重たいものを感じて表情までも翳り。最中何度も〝もう平気だ〟と跳ね起きたい衝動に駆られながら、しかし既の所で押し留めて聞き終えた後の沈黙は、彼と自身の間に流れる常のそれよりやや重苦しいか。ひっそりと息を詰めてその沈黙の中に身を置いていれば、続けて紡がれる本題に僅かに呆気に取られ、不調も相俟って回転の鈍い頭を再稼働させるまで瞬き二往復分程の時間を要し。漸く投げ掛けられた問いの意味するところを理解すれば真上に見える天井へと視線を上げ、自身の感覚に意識を集中させる。不思議なもので、先程まで一切の異変を感じさせなかった全身が、何通りかの道筋を辿って大人しく休息を取るべきとの結論に帰した途端に各所で警鐘を鳴らし始めているらしい。その蝶の羽ばたき程の微音の訴えに耳を澄ますように長い長い沈黙を貫けば、徐に口を開き、遠慮がちながら高熱と喉の渇きを訴えて)
何か冷たいものと……水を、いただけますか。
トピック検索 |