匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(間取りを把握するよう、通り過ぎざまに左右の扉へと目を遣りながら揺れる赤毛を追い掛ける最中、主人がとある部屋の前で足を止めれば、自身も行進隊の如くぴたりと両足を揃えて立ち止まり。恐れを完全に捨て去るには余りに短い道程、口内から水分が奪われてゆくような感覚を覚えるも、身を翻し示されたのは物々しい仕置部屋でも不気味な実験施設でもなく、ごく一般的な居住空間の一画で。主人の意図を測りかねて物言わぬままその場に佇んでいれば、何処からか現れた蒼の光が戯れつくように傍で舞い踊り、翻弄される間に背を押されてはあっという間に浴室へと閉じ込められ。意味ありげな言置に振り返った頃には扉は既に閉ざされており、混乱しきりの頭のまま一度目を瞬かせる。瞬間、冷たい何かが肌に触れたかと思えば頭上からバケツを――否、浴槽をひっくり返したかのような重量の水が降り注ぎ。明らかに蛇口を捻って発生したものでないそれは〝ウンディーネ〟が操っているらしく、濡れた髪の先の水滴も落ちきらぬうち仄かな蒼が一層強く発光すると、またも大量の水が点々と周囲に現れ。大蛇のような細長の形をしたそれらは絡みつくようにうねりながら自身を取り囲み、勢いを保ったまま融合して、やがて浴室の中に渦潮を作り出し。空気を求め喘ぎながら激流に呑まれること数回、何の前触れも無く唐突に水中から解放されると、不思議と心身共に洗礼を受けたような清々しさが残り。更に、どういう仕組みか余計な水分が細かな粒となって自然と引いて行けば、一連の出来事が夢であったのかと思う程頭髪も衣服も元通りに乾燥していて。気ままに浮遊する蒼い光は以降何も起こすことはなく、暫く呆然と立ち尽くすも直ぐに主人の命を思い出して浴室の扉を開き。命を下され窓の外へ飛び立った紙鳥達と同等か、それとも同居人のようなものか。少々扱いに悩んだ末に〝ウンディーネ〟に軽く会釈をすると早々とダイニングへと足を向け。逸る胸のせいか小走りに木枠を潜れば、報告も忘れ通常より僅かに見開いた瞳に好奇の色を湛えて)
リヴィオ様。あれは――?
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