匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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――は、名前……? ……あぁ、俺はリヴィオ・ヘーゼル。見ての通りの魔術師だ。
(初対面から今に至るまで、一貫して沈黙を守りつつ時折口にする物といえば此方への従順な応答か挨拶等のいわば定型文の返しのみ。今回もそれに沿うものだろうと何とはなしに推測を立てていれば、予想を裏切る短い音の響きに思わず重たげな瞼を僅かに開いて。問われた直後こそ訝しげに眉を寄せるも、未だ自身へ繋がる情報の一切を開示していない事に思い至れば、一拍以上の間の後に鈍く納得の頷きを。確かに主人となる者の呼び名程度は知らせておくべきだろうと、座した位置からは多少上にある相手の瞳を見据えつつ簡易に己の紹介を述べて。続け完全に唇を結ぶ前に手中の杖を軽く振ってみせると、頂きに飾られた魔石の淡い光が追って朱の軌跡を緩く宙に描く。それは何も今し方の言を殊更強調しようとしての振る舞いではなく、単に寝支度を簡略するための所作であり。途端、何処からともなく吹き入れた風が身に纏うローブを椅子の背もたれへ攫い、外靴は軽く土を払われ寝台の隣へ、最後に一つ残された杖だけは己の手で丁重に手近の壁へと立て掛けて。先の質疑を以て最低限の責務は果たしたとばかり小さな欠伸を手で抑えると、相手に背を向ける格好で寝台に重い身を横たえ。疲弊し切った思考に纏うささやかな懸念は相手の今夜の身の置き場だが、危なげな魔道具や薬品等はその大概が隠し地下であるし、寝具こそこの一式しかないものの、そう広大という程でもない室内ならばソファーや軽い毛布程度労せず見つけられよう。……全く、本当に今日は紛うことなき厄日だった。けれど、無作法者は成敗し、オークションの品も確保したのだから一先ずは上々と――否、自分の目的は、本当にあの少年だったろうか。泥のように深く沈みゆく意識の中、ぷくりと一抹の疑問の泡が浮かびかけるも、それは表層へ現れる前に呆気なく水中に融けて)
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