匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(直立の姿勢になってすぐ、身構えもしていない無防備な頬をつい先刻に覚えのある隻手が捉えては、目を見開くと共に指先をピンと伸ばしたまま体を硬直させ。幾度か瞬きをするだけでさしたる抵抗も示さずに柔いそこを捏ねられていると、魔術で詰まらない顔を珍妙な造形に作り変えられている気さえしてくるものの、無論そんなはずもなく主人はくすりともしないまま腕を戻し。額をはたかれた際と同様、改めて見上げた先に今し方の気色は尾を引かず、此方が数秒前の出来事に囚われる間に話柄が次へと移れば、この件に深い考察は不要なのだと直感的に心得て。しかしそう意識するまでもなく熱を帯びつつも冷静に授けられた学識と目前で為された実演は他の思考を排する程に驚駭の連続で、宙に出現した氷像が変貌を遂げ、それでも低適性の範疇だと知らされ、魔術の真髄を語り聞かされる度に少しずつ未知の世界に惹かれてゆく感覚を覚える。にも関わらず、相手の口にした奇跡のような力が切望や野心と結び付かないのは胸中の霧がそれを覆い隠すせいか、己が中空の人形であるせいか。神妙な頷きで彼の呼び掛けに応えたなら、落ち着かなげに瞼を伏せて青緑の両眼を左右に泳がせ。学校に通う事はおろか誰かから指導を受ける事すら経験が無く、瞳の奥に不安定な光を揺らめかせると、自身が最も欲し最も恐れた〝自由〟という禁断の果実へ、恐々とながらも手を伸ばす意思を覗かせて)
……此処に来てから、初めての事ばかりです。――よろしく、お願いします。
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