匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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……お前のその詰まらない顔も見飽きたな。ただ怯懦に打ち震えるよりマシとはいえ……まぁ力を得れば多少は変わるか。……――で、適性は氷だったな。極めて汎用性に富む、使い勝手の良い魔術だ。武器にもなれば防具にもなり、投擲や捕縛の他、日常生活においても応用が効きやすい。耐性に難はあるが、修練を積めば炎熱にも溶けず何物をも貫く硬度すら持ち得る。
(手中に抱く未知の果実とその毒蜜に踊る事も無く、ただ機械的に主人の命に忠実であろうとする従順な犬の顔が妙に気に食わず、起立した相手の頬を徐に伸ばした指先でむに、と軽く摘んでみせ。出会った当初よりも幾分かふっくらと肉を備え健康的に色付くそれを、気難しげな顔付きのまま硬化した表情筋にマッサージでも施すかのように数度捏ね回し、手前勝手な独り言の末さした脈絡もなく解放を。甚だ大人気のないやり口にて鬱憤を晴らした後、先の夥しい氷の惨状を思い返しつつ自身の前方へ手の平を上向きに差し出すと、パキパキと周囲の温度を数度下げながら虚空に表出したものは小振りな剣、盾、投擲武器、円形の檻、精巧な薔薇の花と次々にその形を自在に変容させる実用性を兼ねた氷彫刻で。最後に一層の冷気を取り込み極限まで密度を高めた極小の氷石を編み出し、懐から取り出した鈍い灰黒色の魔石を無造作に宙へと放って「……氷の適性が低い俺であっても、極めれば高硬度の魔石程度は容易だ」不意に空間ごと割くような一陣の光が視認よりも速く矢のように飛べば、先の暗色の中央を氷石の形状に貫く所までを眉一つ動かすこと無く示したまでは言いものの、次第に熱を増す講釈は案の定横道へと逸れ始め。しかしながらそれは自身の魔術に対する並々ならぬ熱量から来る平生の悪癖ではなく、鉄の足枷を失っても尚未だ何も持たぬ奴隷に心身を留める相手へ、最低限のレベルといえど魔術を扱う術者となる意義を僅かなり示そうと)
理論的にはそれこそ時間等の概念的な物質を始め、形而上下を問わず真正の万物を氷結させる境地にすら至るとも言う。魔術とは、物理法則に干渉し意のままに事象を操る力だが……たかだか少し火や水を操る程度の、型に嵌り切った一般魔術なんざ末端も末端。――真の魔術とは、この世の何よりも自由で、何をも成し得る万能の力なんだ。……ミシェル。これからお前に、その力の一端を触れさせてやる。
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