匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(視界が閉じ、鋭敏になった聴覚が拾うのは杖が床面に下ろされる音。それが合図のように二回ほど鳴る間に瞼の先で何が起こっていたのかは知る由も無いけれど、此方の精神を波立たせぬ為か外部刺激の予告があれば、ごく浅く顎を沈めて恐らくは特に求められていない肯定の意を示し。他者の体温が手の甲に触れ、それとは別口の熱が末端から徐々に上ってくるのを無抵抗に受け容れながら、これもまた脳を侵すような声音に夢裡の心地で意識を委ねる。自己を顧みる行為は依然として不得手であれど、感情の面ではなく身体的な感覚の面であったお陰か抱いた憂心よりはすんなりと魔力の循環を、ひいてはそれを司る概念的な器官を認知でき。人為的な魔力の開花であるからには無理矢理に力を引き出すような苦痛を伴う手順があるのかと思いきや、瞑想に近いそれだけで終了の指示が下ると、僅かに生じた疑念に反してひときわ凪いだ双眸を目覚めの如くぼんやりと開く。――途端、まさに目から鱗が落ちたと言うべきか、はたまた第三の眼を獲得したと言うべきか。見知った景色の見知らぬ姿がそこに映し出されては、秘密めいた神秘を見つめる瞳はゆっくりと瞠若し、唇から幾つか音を零したきり絶句してしまって。どのくらいそうしていただろうか、漸くの瞬きで忘我の境地から脱すると、自らの目にしたものを説明もせぬまま金眼の奥を覗くように見据え)
――こ、れは……。……同じものが、リヴィオ様にも見えているのですか?
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