匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(実情がどうであれ、オークションで落札された時分から一貫して自身の知る彼はあらゆる知識を具え果断に富む人だった。その主人をこうも悩ませ、苦々しげな文句を吐き出させるのだから、己の生まれついた性質というのは相当に厄介なものなのだろう。浮かぶ面様に更なる問いを重ねる余地もなく閉口しては、肝心の問題が暗然としているために、未知の闇に包まれた獰悪な怪物の姿を幾多も思い描きながら結論を待つ。凶星の下に生まれたせいで両親にも捨てられたのだろうか、彼からも手に負えずに今度こそ放り出されるのだろうか――と、鉄仮面のまま物心のつく以前にまで遡及して悲観する最中、重苦しい嘆息が落とされれば無意識のうちに背筋が伸び。しかし次に此方を向いた表情は平生の厳顔を忘れていやに静穏で、その心中を推し量れずにいる間に告げられた命も自身の予想を裏切る正反対のもので。胸の内に稲妻のような何かが一瞬光って、学術名《エメラルド》の由来たる青緑色の瞳をさやかに煌めかせる。正体を見定める暇もなくまた影を潜めてしまったそれを追うことなく、目線は真正面へと向けたまま魔除けの指輪を通した左手で鳩尾辺りの衣服を弱く握れば、動作自体は微かながらも皮肉げな言にはっきりとかぶりを振って)
……いえ。呪いなんて……、……呪いなんて、どこにも。
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