匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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付いてこい。……そもそも、ここは全てが大樹の内でなく、空間から俺が拡張し創造した住処だ。俺の部屋でなくとも、この屋内なら何処からでも地下への扉は開く。
(魔術への見識の浅い者にとってはさぞ奇異に映れど、当然ながら術者たる自身においては日常風景に過ぎず。風が吹けば戸が空いた程度の薄い感慨の下、短く命を放てば地下へ続く薄闇へと先行して片足を浸し。螺旋を描く階段は重い閉塞感を纏うものの、一歩段差を踏み締める毎に足元へ埋め込まれた魔石が仄かに行路を照らすため、追随する足場に迷う事もあるまい。そうして彼へ与えた鍵についての付言も交えつつ十数段程度を地下へと潜れば、急に視界が開けたと同時に秘密部屋の様相が明らかとなる筈で。用途に応じ幾つかの部屋に分かれる地下構造において、階段に面した一室は最も使用頻度の高い実験室。黒く滑らかな幅広の台を中央に据えて、壁際を囲うように薬箪笥や壁掛け棚が配置されているまでは一般的なそれの範疇に留まり。だが、一瞬で目を引くだろう人体ほどもある巨大な丸底フラスコが台を挟んだ真向かいに浮遊し、その体内で踊る鮮やかな花々の開花と枯死を操るが如く古代語の魔術式が虚空へ輪となって走るのを見て取れば、此処が尋常ならざる魔術部屋である事は忽ち知れるだろうか。周囲を取り囲む棚に並ぶ品々も明らかに曰くありげな髑髏やら素人では到底用途の伺えぬ奇形の魔道具やらと、地上のそれを超える奇々怪々な代物が整然と並ぶ中、つかつかと靴音を鳴らして歩み寄ったのは暗色の実験台。その上へ台座と共に据えられた恐ろしいまでに清く透徹する薄氷色の水晶玉は、上品な金細工で飾られた身の内へ刻一刻と彩を変える仄かな灯りを密かに息づかせており。室内へ目線を巡らせながら以降の仕事内容を具体化した後、不意に背後の彼へ振り返ると目線のみでその魔力測定用の魔道具を含みを持って指してみせ)
まぁ、基本的には此処や奥にある危険の少ない魔道具の整備と、薬の調合を頼みたい。何処ぞの誰かさんのゴタゴタもあって、いよいよ手が回っていない状況なんでな。……が、その説明に入る前に、念の為確かめておきたい事がある。
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