匿名さん 2022-08-21 15:03:38 |
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(種火から火を移すように杖が指輪へと差し向けられれば、瞬く光と指の付け根をぐるりと温める熱によって、何か――主人の言うところの〝鍵〟がその内に宿ったらしいと悟る。一見して変易の認められない魔除けは依然黒々と艶めき、弱い摩擦熱程の温感もすぐに引いてしまっては何事も無かったかのようにすっかり沈黙して。元より洗練された印象を受ける造形ではあるものの、今は一層乙に澄まして感じられるのは特別な力を付与されたのだと己が認知したためだろうか。じっと注視していたそこから動き出す杖先へと視線を移したなら、至純な双眸の先は赤い魔石に乗って床面へと降り立ち。適当な呪言に心当たりも無いため唇は少し緊張させるだけで、朝の森の夢を見た際の感覚を思い出しながら瞼を伏せると、柔く曲げていた左の五指をそうと伸ばす。これから起こる現象も知らぬまま、従服と冒険心のみで開けと愚直に念じた次の瞬間には、沸騰する湯のように次々足元で魔法陣が展開し。一面に咲いたそれらは乾いた音を合図に、先の窺えぬ大穴となって圧倒される自身の眼前へと現れる。深淵に誘われるように一歩踏み出して中を覗くと、つと主人を振り返って彼にとっては実行する以前から分かり切っていたであろう結果を報告し)
……開きました。
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