狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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……これは“印”だ。私がお前の物であると、妻であるという証。それに──これがあれば何処へ行こうともすぐに見つけられる。
(歯を立てた事で僅かに傷がついた相手の甲からはほんの僅かではあるが出血をしてしまい、それが牙を伝い口内へと入ってくればその甘美さに思わず目が見張る。嗚呼、やはりこの娘は何処までも歴代に匹敵する程の者なのだなとほくそ笑んでは相手の手を離してやりながら立ち上がると、驚いている様子の問に答えを。初代の花嫁を今でも覚えている、雪の降る中見たあの姿は今でも忘れられない。一族に繁栄を齎す為にこに憑いて早数え切れない程になるが、たくさんの嫁を貰う中でその娘等は狐の力故か否かは未だに図りきれないが、周りを魅入らせる性質があり些か“厄介事”に巻き込まれやすい傾向にある。この“胤”はそれ等から守るための目印にあたり、目のつきやすい箇所にあればある程力は強く、遠くに離れていても些細な変化や“喚び声”で直ぐに駆けつける事ができるようになるのだが、この華は呪いでもありその娘の引き立て役になってしまう為に余計に厄介事に巻き込まれやすくなってしまうのが疵な所である)
私はこの屋敷から外へ出ることは滅多にないが、お前は違う。私の妻として外へも赴かなければならない──何かあれば、私の庇護がある事を思い出すがよい。……さて、そろそろ連中共が痺れを切らすだろ、行っておいで。
(まだまだ幼く小さい娘、何故ここに連れて来られたかも何故自分なのかも全てを理解しているかどうかも定かではないし不運な運命に巻き込まれたと嘆いてるやもしれないと思うとなぜだかいつも胸が痛むような気もしてならない。相手の頭を撫でてやれば、くるりと襖の方へと身体を反転させてやり軽く背中をトントンと叩いてやるとちょうど相手の専任の使用人となる“柊”が迎えに来た所で『ああ、ちょうど良い所に来たな。菖蒲、お前の世話をする柊という者だ。能面みたいに表情が固い女だが仕事は的確だよ、良くしてもらうといい』柊あとは頼む。と付け加えると佇んでいる着物姿のまだ若さのある女は会釈をして、それを見届けては眼下の相手の頬に顔を寄せようと屈みこんでは軽く唇を寄せて直ぐに離れると謁見の間を後にしていき)
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