Petunia 〆

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匿名さん  2022-05-28 14:28:01 
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  • No.756 by ギデオン・ノース  2024-04-13 17:00:07 




……、…………、
この手のは……この手のだ。

(躊躇いがちな真っ赤な顔に、ふるふる不安げなスカーフ耳。それらを向けられたギデオンときたら、(あ)と顔色を変えたが最後、また気まずそうに顔を逸らし。それでようやく絞り出すのが、この煮え切らない返事とくるのだ──つくづく愚かなものである。こんなことになったのは、普段は気をつけているはずが、時折失念するせいだ。歳相応の知識があるとはいえ、そして今は少しずつ教え込まれているところとはいえ。相手は本質的に、非常に育ちの良い女性であって……遊び呆けていた己と違い、その手の“教養”はまだまっさらなのだと。そんな彼女に、まさかそんな。──意欲旺盛な真相なんぞ、ぶちまけられるわけもなく。
以降のギデオンは、これまで何でも話し合ってきた相棒兼恋人に、どんなに食い下がられたとしても、頑なな態度を崩さず。真冬の山奥にいるというのにだらだら冷や汗をかきながら、「そろそろ仕事にとりかかろう」「今日は薬草調査だったな」なんて、あからさまにも程がある話題逸らしを繰り広げて。そうして、たまたま通りがかった冒険者の誰かしらが、倒れているレクターにぎょっとした反応をすれば。「そうだ、こいつを介抱しないと」なんて、心にもない台詞を調子よくほざいては、教授を屋内に運び込み、目を覚まさせてやるだろう。)

(──さてはて。経緯はともあれ、相棒の治癒魔法の甲斐あって、無事回復したレクターは。微妙な空気が漂っているこちら側に気づくことなく、「アアッ!? あの伝説の雷落としを、生で!? 生で喰らってしまった……!?!?」だのなんだの、理解不能な奇声を上げてひとしきり悶え転がりはじめた。なんというか……一般人にも荒っぽくした罪悪感を抱いていたのだが、元気そうで何よりである。もう少し沈めておいても罰は当たらなかったろうか。
ともかく、そんなレクターに白けた目を向けつつも。「なあ、そもそもどうして俺たちを訪ねに来たんだ?」と。薄々気づいていた事実にギデオンが切り込めば、レクターもはたと奇態を止めた。「そうだ、大事な話があったんです」。ベッドの上に座り直し、真剣な顔でこちらと向き合う。「おふたり、今朝は実地調査に行かれるでしょう? それにあたって、お耳に入れておきたい話があったんですよ。このフィオラ村の禁忌──“骨の結界”についてです」。
民族学者としてはずば抜けて有能な、このレクターの聞き込み曰く。このフィオラ村の周辺には、これまで亡くなった村人の骨をすり潰して粉にしたものが、ぐるりと引いてあるのだという。魔法も込めてあるために、風雨や動植物には荒らされることのない白線なのだが。人に対しては無力そのもので、簡単に踏み荒らせてしまうから、野山を歩くときにはよく気を付けてほしいという話らしい。いや、それは構わないが、何故に人骨を使った魔法陣なんぞ……とおぞましく思いながら訊ねるに。この風習の発端は……200年前のこの村を襲った、とある惨劇なのだそうだ。)



(──ビビ君。今からする話は、女性には少しきつい部分があるかもしれない。でも、詳細を知っておくほうが、もしかしたら今後、自分で身を守れるかもしれない。昨日の事件もあったから、僕はどうか、この村の暗い部分を、君にも知っておいてほしいと思う。いいですか? ……ありがとう。それじゃあ、ちょっと話しますね。

……村の語り部が、僕にこっそり聞かせてくれた話によるとね。まず、200年前のフィオラ村は、フィールド家、という一族が支配していたそうなんです。
このフィールド家ってのが、ちょっと横暴な性格でね。王都に卸す皮革製品を作るために、村人を朝から晩まで休むことなく働かせたり、村娘を手籠めにして無理やり子を産ませたり……まあ要するに、やりたい放題だったそうなんですよ。「鞭を惜しむのは、村民を甘やかすことと同義である」とか何とか言って。村人たちは、それでも決して逆らえなかった。元々、フィールド家も含めた彼らは皆、ガリニア本国での迫害を恐れてヴァランガ峡谷に逃げ延びてきた、少数民族のルーツらしい。だからこの村を出たところで、他に行くあてなんてない。そう身の上を諦めて、権力者の横暴を苦々しく思いながらも、受け入れていたそうなんですね。
けれどやがて、それを覆してしまうような、とんでもない事件が起こった。きっかけになったのは、村長家の跡取り息子。──エディ・フィールドという、根暗な性格の、独りぼっちの男でした。
この男が、フィールド家そのものなんて目じゃないくらい、酷かった。端的に言って、異常者なんです。当時のフィオラ村は確かに狩猟を生業にしていたけれども、エディ・フィールドは子どもの頃から、野鳥や狐を残虐にいたぶって遊んでいると噂されていたそうです。そうして大人になると、今度は村の墓を掘り起こすようにさえなった。──死体を、弄ぶんですよ。でも相手は村長家の息子だから、村人たちは何も言えない。
これで調子に乗ったエディ・フィールドは、もっと酷いことに手を染めていった。生きている村娘を攫うようになったんです。それも、フィールド家が元々やっていたようなやり方なんかじゃない。女性を殺して……その生皮を、剥ぎ取るんです。獣から皮をとるみたいに。何に使うかって? チョッキとか、ズボンとか、ランプシェードとか。そういったものに加工するんですよ。村が元々作っていたような、皮革製品そっくりに。そして頻繁に、人皮製品だけを身に纏った異様な姿で──墓場で踊っていたそうです。
こんな異常者をのさばらせるのは、フィオラ村の人たちも、流石に限界だったんでしょうね。男の姿をした畜生を裁くべく、大勢が立ち上がりました。松明を明々と燃やし、弓矢をつがえ、大振りの鉈を掲げて。鬼気迫る顔をした村人たちが、本気で彼を追い詰め、瀕死の傷を負わせました。エディ・フィールドは山奥に逃げ込み、それきり二度と戻らなかったそうです。元々狩猟の村ですからね、野山にはあちこちに罠が仕掛けておいてあります。そのどれかにきっと引っかかったのでしょう。そうでなくとも、ひとりで山をうろつけば、どの道魔獣の餌食です。
村人たちはもちろん死体を捜しましたが、見つかったのは、深い落とし穴のひとつに落ちたような痕跡だけ。必死に這い登ったのか、肝心のエディ・フィールドの姿はなく、辺り一面が血まみれなだけでした。そうこうするうちに大雨が降ってきて、跡を追えなくなったので、村人たちは彼を死んだものと看做し、村に引き上げることにしたそうです。
もちろん、それで終わりじゃありません。彼を生み出した憎き村長家、その一家全体も、勢いでお取り潰しにしました。権力に取り憑かれた一族が、二度と自分たちをいたぶらないように。彼らの遺体は、エディ・フィールドが落ちた穴まで運んで、そこに放り込み、焼いてしまったそうです。これでようやく、残りの村人たち全員に、平穏が訪れた。……誰もが、そう思っていました。

でも、そうじゃない。被害がより大きかったのは、これから先の話です。
おぞましい“皮剥ぎエディ”は、おそらく肉体上は、呆気なく死んだはずでした。けれどもその怨念、フィオラ村の人々への逆恨みは、強く残っていたんです。

──エディ・フィールドを追放した、その年の冬。村長家亡き後の平和を享受していた村に、いきなり怪物がやってきました。
黒い亡霊のような、空飛ぶ巨大な骸骨のような。とにかくそういった、圧倒的に超常の、人など到底敵わぬものが。吹雪の低い唸りとともに、空から襲ってきたんです。
冷たい雪の吹きすさぶなか、突然狙われた村人たちに、成す術などありませんでした。アッと思った次の瞬間には、頭そのものが消し飛ばされたり。怪物が過ぎ去った後の旋毛風で叩きつけられ、それだけで死んでしまったり。それはあまりにも一方的な、惨たらしい仕打ちです。家の中で震えて隠れている母子さえ、怪物は必ず見つけ出し、爪でばらばらに引き裂いていくのです。守ろうと立ちはだかった男は、次の瞬間、ぱっくりとふたつに割られ。逃げ遅れた老人も、谷の岩壁まで撥ね飛ばされました。
当時の村は、数百人ほどの人口を誇っていたと聞いています。しかしそれが、あっという間に、まるで蜘蛛の子を潰すように。宙を飛び回る怪物によって、呆気なく、簡単に、惨殺されていったんです。
どうしてこんな目に遭うのか、わけもわからぬまま死んでいった村人も、数多くいたことでしょう。しかしそうではない村人もいて、彼らの恐怖ときたら、より凄まじいものでした。──だって、ね。声が、同じなんですよ。怪物の唸り声は、エディ・フィールドを大勢で追い立てたとき、奴が血を流しながら喉から迸らせていた、あのおぞましい呻き声……あれにそっくりだったそうです。
奴が復讐しに来たんだと、人々にはわかりました。奴はフィオラ村の人々を皆殺しにするために、怪物に成り果ててまで、地獄の淵から舞い戻って来たのだと。そして自分たちは、それに抗う術などないと。……自分たちが全員死ぬまで、エディ・フィールドの怨念は、決して止まらないのだと。村人たちは、再び運命を諦めるところでした。

しかし結論から言って、救いの手はありました。
村人が半分どころか、四分の三も殺されたころになって。この村に伝わるとある秘薬が、この怪物を退けてくれる突破口だと、誰かが突き止めたそうなんです。
どうしてそんなことがわかったのか、どうしてそんなものが作られていたのか、そこのところは伝わっていません。とにかく、村人たちは秘薬を飲み、たちまち授かった魔力でもって、怪物に対抗しました。亡霊じみた怪物を完全に滅ぼすには至りませんでしたが、それでも深く傷つけ、弱らせることはできました。怪物は憎々し気な声をあげ、村を引き上げていったそうです。異能を授かった村人たちとの闘いは、埒があかないと思ったのでしょう。それでもいずれまた、村の生き残りを狩り尽くすために、襲撃してくるはずでした。
生き残った村人たちに、亡くなった大勢の人々を悼んでいる暇はありません。病が広がらないよう遺体を焼却していたとき、ふと誰かが気がつきました。──この骨を粉にして、秘薬を混ぜたものを、村の結界として張ったらどうか、と。もちろんそれは、禁忌です。遺体を燃やすのも酷いことなのに、その上材料として使うだなんて。あの憎きエディ・フィールドがやったことと何が違うんだ、という反発もありましたが、とにかくやってみることにしました。そうしたら、どうです。戻ってきた怪物は、結界を張ったフィオラ村に入ってこられないじゃありませんか。
ここから、今のフィオラ村の風習が始まりました。亡くなった人を墓地に埋葬するのではなく、火葬して灰にして、怪物から身を守るための結界線になってもらうんです。そして毎年この時期、怪物が去年の傷を回復させて必ず襲ってくるその季節には、村の“英雄”が秘薬を飲み、怪物と戦うんです。怪物を万全なままでい刺せたら、いずれ結界を破られるかもしれない。だから向こうから近づいてきたときに、“英雄”が奴を痛めつけ、またしばらく近寄れないようにする。そういう慣わしが生まれたそうです。

──おふたりとも、察していますね。
そうです。そうなんですよ。そのための英気を養うお祭りが、今催されている。この“祝祭”なんだそうです。
そして、村に伝わる秘薬というのは、そこにある赤い花から作られているもののようです。フィオラ村の人々が、ガリニアにいた頃から大事に大事に栽培してきたという、特別な“花”……。調査隊のなかでいちばん村と親しくなれただろう僕でさえ、その花畑のある場所には案内してもらえませんでした。
そのくらい、この村にとって、この“花”は特別な、神聖なものらしい。元々愛でていただけでなく──冬にやってくる怪物を、この村と二百年もの間因縁がある怪物を、退けてくれるもの。それをおいそれと、村のよそ者のために摘んでいい筈がありません。
もちろん、おふたりのことは疑っちゃいませんよ。ビビ君のことを聞いて、きっと無邪気な村の子どもが、善意で贈ってくれたんでしょう。この“花”の力を借りたら、たちまち元気になれるとか、きっとそんなようなことを言って。
それ自体は、悪かないんです。その子の善意も、おふたりがそれを受け取ったことも。問題は──村の大人たちの目に、それがどう映るか、ということなんですよ。)



…………

(………レクターの、彼らしからぬ静かな語りを聞いたのち。彼が別の冒険者に呼ばれ、外に出ていったその後も。ギデオンは長いこと、ヴィヴィアンの隣で押し黙ったまま考えていた。
今聞いた話は、俄かには信じ難い物語だ。エディ・フィールド自体は恐らく実在したのだろうが、逆恨みしたその男が怨霊となって村に戻り、村の人々を一方的に惨殺して回った、などと。はては、村にたまたま不思議な秘薬が伝わっていて、それを飲めば魔力が漲り、怪物を退けることができるようになった、などと。あまりに突飛が過ぎる……というのが、ギデオンの感想だった。全てが事実というわけでなく、事実を元に脚色した伝承。ギデオンが昨夜観たタペストリーや、その前に見た舞台演劇で、似通った話の細部がそれぞれ違っていたことも、その証左になり得るだろう。
──おそらく怨念の怪物というのは、雪山によく沸く魔物、ウェンディゴのことであるはずだ。ギデオンたちもこの村に来る前に、その唸り声を聞いている。フィオラ村の人々は、難民という出自から、トランフォードの魔物の生態に然程明るくなかったのだろう。そうして、エディ・フィールドの死後にたまたま出没したウェンディゴを、彼が化けて出たものだと勘違いしてしまったのだ。
ウェンディゴを退けた秘薬の力というのも、おそらくたまたま伝わっていたわけではない。例の“花”とやらに、人体に宿る聖属性のマナの力を一時的に高めるような効能があったために、村に役立つものとして、その製法が受け継がれていたのだとう。しかし使われてはいいなかったのは、おそらく副作用か何かがあり、その危険性を鑑みてのことだ。──こういう話は、ごまんとある。現代の冒険者ギルドで、ヒーラーがよく煎じてくれるバフ効果のあるポーション……あれと同じものが、国内各地の村々でも古くから作られていて。けれども、その効能や副作用の科学的な把握はなされておらず、それらしい伝承や教訓といった形で、受け継がれたり失われたりする。フィオラに伝わる秘薬というのも、きっとその類いの代物だ。
──その辺りは、別にいい。それよりも、問題なのは。)

……あの子たちは。
自分たちの兄貴が、“英雄になる”って……言ってたよな。

(──副作用か何かがあるために、製法は伝えられながら、使用はされていなかった“秘薬”。そんな危険な代物を、まだ幼いあの少年が、儀式で服用する運命にある。
そう知ってしまった今、何も考えずにいられるわけがあるだろうか。村にとって多重の意義を持つ“花”をこの手に持ってしまったことより、今目の前で進行している状況の方が、ギデオンには余程問題だ。複雑な表情を浮かべた顔で、隣にいる相棒を見つめる。重々しく開いた口は、相手のことを信じ切ってのものだった。)

──この件は、見過ごせない。
薬草調査と並行しながら、俺たちで調べないか……“秘薬”とやらのことを。



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