オペラ-罅隙- ／ 〆

( 己の幸せを問われても、昨日からの記憶を消し去ってもう一度心から柾を信用したいと、そんなことは不可能だと分かっていて、寛大に信じることも出来ずに藻掻く己の姿の醜さに櫻子が離れていくことに怯え、なんとか彼女を縛り付けようと躍起になっている。その理由さえも元親友の情としか答えられないのは、恋だ愛だと安直な結論に結びついた途端 健全な親友だった幸せな思い出すら穢してしまうように感じているからで。追い詰められてもなお昨晩と変わらぬことを言う櫻子に、このままでは同じことを繰り返すだけだと困ったように息をつけば、細い脚の間に膝をつき、色気を感じさせない動きで寝台に乗り上げて胡座をかき。櫻子が首筋に触れて嘯く言葉も端から信じていないため、同情を誘うような普段の明人を思い起こさせる軽い調子で白い首筋に咲く紅い花に触れ、その手をつつ…と鳩尾まで滑らせれば軽くトンと叩いてニヤリと笑い。 )

お前は、そうやって……男を煽ってどういうつもりなんだ？油断させて……隙をつく、とか？

( それでも真っ赤になった項にふっくらと産毛がたつのを目にすれば劣情を煽られるのも確かで、親友だった彼女にそんな気持ちを抱きたくないという理性と反する体を紛らわすように足を組みかえ、自分に言い聞かせるつもりで放った言葉は、櫻子の情欲を正面から拒絶する形ともなって。 )

分からない……けど、俺はお前にこんなことしたくない。