匿名さん 2022-03-14 00:31:01 |
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( 豪奢で眠りを知らないダンスホール、帝国には未だ数十年前に伝わったばかりのガス灯の光が、めいめい華やかに着飾った参列者たちの宝石や金具で煌めいて彼らのダンスに合わせて瞬いている。まるで大きなオルゴールのような会場を、大切な婚約者に手を引かれて歩む時間は、本来社交的で派手好きな明人であれば心躍るに違いない時間だが、今夜は心ここにあらずとまではいかないものの、何処か夢を見ているような眼差しで思い出すのは同室の彼女のことばかり。今夜の参列者達の様な余所行きの背広を着た柾は会場中の女性の目を轢くに違いない……なんて、いつまで居もしない親友に囚われているのか。たしか今夜は彼女の方も予定があるとか、最近やっと行き先を問いたださずに背中を見送れるようにはなったものの、今夜こそ彼女は帰ってこないのではないかという不安は常に明人の心を曇らせている。とはいえ内心を隠すのは得意な質であるから、それこそ鋭い幼馴染でもなければ気づかないであろう。 )
『お誕生日おめでとう、愛子!
今夜も一層素敵ですこと……こちら、貴女のお気に召したらいいのだけど。』
( ダンスホールの中心で今夜の主役を見つけたらしい椿が、ぱっと表情を輝かせて駆け寄るのに付き添えば、確かに他の参列者達と比べてもセンスの良いドレスに目を惹かれて。椿とはまた違った青色のドレスは可愛らしさの中にモダンな雰囲気もあって、きっと櫻子も似合うだろう。でも彼女はもっと身長があって手足が美しいから──そう、主役の隣にいる女性のようなマーメイドラインのドレスの方が── )
お誕生日おめでとうございます。藤堂明人と申します。
お噂はかねがね……椿さんのクローゼットの中身は貴女のドレスばかりですから。……そちらの方は。
( 普段はクールな椿がまるで女学生に戻ったかのようにはしゃいだ声を出すのを微笑ましく聞きながら、『こちらは"婚約者"の明人さん』と紹介された声にぱっと顔をあげれば、見知ったどころか今の今まで考えていた本人の登場に内心非常に驚いて。それでもそつなく愛子に対して微笑めば、精一杯自然に櫻子の方へ向き直るも普段より若干ぎこちなくなったのは椿や櫻子には気づかれていそうで。 )
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