光梨 2022-03-09 19:01:29 |
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自分の放言でついさっきまで晴れやかだった御剣の顔が怒りで厚く曇るほど傷付けてしまったことに気付くと猛省し、申し訳なさから目を合わせられないながらもたどたどしく謝罪の言葉を置き。恐らく今日誘いをかけたのも純粋に友人への礼としての目的もあるが、御剣自身が拠り所ない気持ちを未だ引き摺って、一人でいたくないほどの心許なさに蝕まれているという理由もあるからではないかと気懸かりになり。日頃の御剣の口から出すなどまずないような熱い言葉もときめきより心配の気持ちが大きくまさって、少しでも励まそうと成歩堂なりに熟慮しながら細心に、しかし朗らかににこやかに語りかけ
「ご、ごめん‥‥ぼく、お前にそんな顔させるつもりじゃ‥‥子供の頃みたいに御剣とこんなに長い時間を過ごせるのが嬉しくってこんなにはしゃいじゃってるの恥ずかしいから照れ隠しによくない冗談言っちゃった。家賃のことも本気じゃないよ。‥‥軽率だった。
ぼくだって御剣と一緒ならいつでもどこでも楽しいはずだって思ってる。こんな素敵なところも御剣がぼくのために選んでくれた場所だからより一層‥‥あっ、これはどうもご丁寧に」
注意深くワイングラスをテーブルに置いて、名刺というよりは賞状でも授かるかのように両手で大袈裟なほど丁寧に受け取り。ふと後ろから透けて見える数字の列に気付いてひっくり返した先に番号を見つけると、大切に両の掌の中に包み込んで宝物を見つめるように眩しげに微笑しつつしばし眺め礼を呟き。同じように懐から革製の名刺入れを取り出し、慎重な手付きで綺麗に収めて再び大事そうに胸にしまい込み。
頼りになる男ではあるものの、職務以外の事で積極的に他人の面倒を見るタイプではない御剣がこのような申し出をしてくるということはやはり不安な日々に打ちのめされているのではないかと思い悩んでいると、いつだったか悪乗りで証拠品に探りを入れようとしたことに不意打ちに釘を刺されて大粒の汗を大量に流しながらしどろもどろになりに謝り
「あ、あのその。あのときは悪かったって‥‥
相談か。なあ、別にこれといった用事がなくてもお前に会いたいと思っちゃだめかな。
あ、そうそう。ぼくの方は携帯一台しか持ってないから、昔渡した名刺に番号載ってるからね」
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