匿名のなめ 2021-12-25 22:01:06 |
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……把握したわ。ありがとう。
(目の前の男が硬貨を眺め、思考し、そして嘆息する__その一部始終がなぜか面白くて、深い唸りに加えて鈴のような笑い声が場に残される。コインの裏に振られた数桁の番号、これが身分証明の意であることは薄々察している。さっき確認した彼のものは600番台であったから、自分をここへ流した男…モレロと言ったっけ…との間に何か共通点があるのだろう。クラネオと名乗った相手は自分を技師と呼んだ。だが、電子報告書に記された内容はどう汲み取ってもアサシン、他者の命を生業とするものだった。記憶を辿ってモレロのソレを脳裏に開くと人事的な書類もありつつ、中身は似通ったようなモノ。二人の人物だけで解を導き出すのは甚だ早計だが、可能性として保管しておくのは非ではないだろう。彼が苦悶より這い出て所以をこちらへ戻したのをきっかけに考察を中断、再度巾着にしまう。顔を上げるとそこには層雲。やがて大気と混じり霧散した向こうに、煙草を咥える男の姿。…………にしてもやけに鼻につく残り香だ。そういえばこの部屋には独特のにおいがあると感じていたけれど、これ故か。…あ、待って、ちょっとクラクラする、「失礼」、ポケットから綿のハンカチを取り出し、何時ぞやの避難訓練のごとく鼻口を覆う。邪魔している状況においてまさか文句を言えるまい、ただ…馴染むのには幾分か時間が必要そうだ。マスク買っておこう…。いつの間に右下にあった視線を正面へ移し、そんな気も知らず次の説明を始める相手に隠れて口を真一文字にさせた。いかにも回数を重ねた口ぶりは生活の最低限を伝えるもの。つらつらと並べられた言葉をそのまま分析機関に焼き付け乍ら、女に配慮しているような紹介に認知機関はとある仮定を打ち出した。)
二つ。まず、あなたの生活する部屋はどこ?断じてそんな趣味はないけれど、仮に間違えて入ったとしてプライバシーを詮索されるのはいい気持ちじゃないでしょう?それとネットショッピングの宛名をここに変更したいのだけれど。
(どちらも同居人のプライバシーへの保険。裏社会では情報ひとつ重大なピースとなり得るからこそ、こうした断りは当然生じるものだ。にしても前者は、一見矛盾のようにさえ感じられる。他人の裡に滑り込み、あらゆる秘匿を収集する__その行為を否定するというのは自身を否定することではないか。しかしこの理論で詰め寄った時、彼女はたったの一言で問者を跳ね除けるだろう。
「芸術家と犯罪者を同じ秤にかけるなんて、精神性を疑うわ。」)
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