諜報部員 2021-11-28 21:49:05 |
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( からりと澄んだ空気__とは言い難い十二月のロンドンは、鉛空がやけに重苦しい印象を与えていた。雲間から青空を垣間見る事も儘ならぬこの時期、室内さえも何処か鉛の如き重さを抱えている様で。原因は考える迄も無く、苛立ち一つ隠さぬ様にしきりにデスクを指先で叩き付けている己の上司その男。薄く形良い唇を食み、普段から絶えぬ両目の隈は殊更深くなっている様にも見える。散らばった資料をファイルには挟み、音を立てぬ様にそうっと閉じ具をしめながら事の次第を思い出すこと、一ヶ月前。__何処からかネズミが一匹忍び込んでいるらしい。その情報を受け取った十一月、己が母国とするドイツから同時に秘密裏の通信が届いた。内容など言うに過ぎたることで、要は母国まで逃げ出す仲間の手引きをしろとの命令。無論、断る理由も無ければ術もなく、現在随分と苛立った様子の男__アーネスト・スペンサーの部下然としつつも仲間の諜報員へ情報を提供し続けてきた。詰まるところ、彼の苛立ちのほぼ全ては己が致した諸行の所為であって、少し許りの同情すら胸中浮かんできてしまうも道理。スパイの可能性が有ると知ってからと言うもの、男の働きぶりは筆舌に尽くし難い程で素晴らしく、その有能さには舌を巻く程であった事は言うまでも無い。彼にたった一つだけ敗因があるとするならば、直属の部下として己__これまたスパイであるシャーロット・クラークという女__が配属されてしまった事だろうか。何気無い動作で机上に鎮座する小さな時計へ目を向ける。今日を超えれば母国から課された仲間を逃すと言う任務は成功なのだ。諜報員へ手渡したチケットは14時発の船便、時計の針が指し示すは12時の一歩手前。保安局本部が設置されるここ、ウェストミンスターからハリッジまでは凡そ2時間程度掛かるため、針が12時をぴたりと指してくれればその瞬間己の勝利は確信できる。その筈だったのに。時計から視線を逸らした瞬間に耳へ飛び込んで来たのは、オリヴィアにとっては吉報で、シャーロットにとっては悲報そのものだった。溜息すら零してしまいそうな一瞬、驚きの表情を"さも喜ばしい知らせ"であるかの如く偽ると、刹那の間に部屋を飛び出した男の掛け声に慌てて立ち上がって。スノーホワイトを思わせるコートを羽織りながらぱたぱたと駆け足で男の元へ向かい、人畜無害そうなかんばせを務めて作り上げてから )
__すみません、直ぐにいきましょう。…それにしても良かったですね、遂に捕らえられそうで。何かと彼に張り付いていた日々もこれで報われそうです!
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返事が遅くなってしまい、申し訳ございません。そして素敵な初回文を有難うございました!英国の小説を思わせるロルの書き振りに引き込まれて、何度も何度も読み返してしまいました…。返信内容について認識の相違などございましたら、お手数ですがご指摘いただけますと幸いです。
また、今後の展開についても素敵なご提案を有難うございます!何れも此方から口を挟む事すら烏滸がましい程です、これだけで小説が一冊書けちゃいそう…。
ちなみに③について、男の姿を見かけ船内へ捜索に入った際にアーネストとオリヴィアが別行動を行い、先に男を見つけたオリヴィアが男を(拳銃自殺と見せかけ)射殺し、男の持ち得る情報の全てを個人で処分する…と言った展開も個人的にはとっても好きなのですが、如何でしょうか?その際の不審点が後々のアーネストの疑念に繋がれば良いなあと思いまして…!宜しければご検討ください!
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