観測者 2021-09-18 20:02:12 |
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>ノラ
──ノラ。契約成立の証に、ここに名前を。
( 確かめるように、意識を捉えるように、名前を呼ぶ。その彼女を表す固有名詞を口に出す瞬間、元からお世辞にも豊かとは言えない彼女の表情が消えた気がしたけれど、ここで話が逸れてしまうのは自分にとっても、きっと彼女にとっても本意ではないだろうと言及は控えておく。覚悟を決めるように細く息を吐き出し、指し示したのは露わになっている上体の一部。心臓の真上、左胸の辺り。彼女に渡した万年筆の中には、インクの代わりに趣味の悪い魔女の魔力が込められている。その魔力で、身体に名を刻むのだ。そう、まるで自分の所有物に名前を書くかのように。胸に書いた文字は、ペン先を離した途端に身体の内に沈み込んで、心臓へと灼き付く。そうして隷属化が完了すれば、首元に鎖のような模様の痣が顕れる。簡潔に言えば、この儀式はそういう仕組みだ。熱線で心臓を灼かれる苦痛は到底積極的に味わいたいものではないが、これは自身を縛る鎖と同時に、身を守る命綱でもある。否が応でも脳裏に浮かぶ趣味の悪い魔女の姿に顔を顰めると、苦々しい声で付け足して )
……一筆書きで、できるだけ一思いにお願いします。
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