27836 2021-09-01 21:49:39 |
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レイ、レイ…!
(いつも通り、頬を撫でて自分を安心させてくれようとした相手は、それっきり反応を示さなくなり。ぬるりとした手のひらの感触だけが、酷く鮮明に残って。心臓が嫌な音を立て、先程とは違う、じりじりと侵食してくる恐怖を振り払うように足に力を込め。小さな体では思ったほど前に進めず、路地裏がどこまでも続いてるように感じ。)
もうすぐだから…お願い、まだ…
(「いかないで」、は口に出せず。ようやく表通りに飛び出すと、相手の愛馬が主の異変を察してか忙しなく足踏みをしていて。相手は相当無理をして助けに来てくれたようで、しっとりと汗を浮かべたヘルエスの周りには様子を見にきた人々が集まっていて、血濡れの相手を背負って現れたアトラリアに彼らも動揺し、ざわめき。)
お医者さままでご案内いただけますか…!レイ…レイ・エッセル様が、刺されてっ、犯人はこの路地の奥に!
(子供のような容姿、そして異種族の自分が叫んだことに一瞬訝しんだ様子だった人々も、主人の名前を出せば事の重大さを察したようで。それからは目が回るような展開だった。屈強な男たちは路地裏へバーゲンを拘束しに行き、乗馬に自信があるという青年はヘルエスに跨り屋敷へ知らせを届けに。食料品店の奥さんは息を切らしながらアトラリアを診療所まで先導してくれ、ものの数分で主を医者の元へ運び込むことができて。血相を変えた医師に「最善を尽くす」とだけ言われ、診察室から追い出され。付き添ってくれた店員さんに宥められながら、血の滲んだワンピースの袖を気にすることもなく、ただただ願った。レイが助かりますように。私の命を削ってもいいから、)
どうかレイだけは__
(それから、どれくらいの時が過ぎただろうか。街の治安維持隊に事情聴取され、しどろもどろに答えていたら旦那様が現れて。また一から説明をやり直し、何度も、何度も頭を下げ。自分があんなことを言わなければハーゲンの怒りを買うこともなく、レイ様もお怪我をされなかったはずだと、謝罪を繰り返して。旦那様は自分を責めることも非難することもせず、ただ静かに話を聞いていて。やがて、アトラリアに怪我はなかったのか、気に病むことはない、息子を運んでくれてありがとう…などと慰めの言葉を残し。レイの容態が安定したら馬車で屋敷に運ぶよう指示を残し、ハーゲンが囚われた治安維持隊の本部へと出向くようで。最後、アトラリアに主の側にいるようにと一言だけ残し、ヨハネスは立ち去って。そうしているうちに、やっと診察室の扉が開かれて。)
先生…!レイ、様はっ!
(飛び上がった自分を宥めるように医師は深く頷き。「眠っておられます。しかし、出血があまりに多く…目が覚めるまでは油断を許さない状況です」とゆっくり、落ち着いた声で答えてくれ。今夜、高熱に魘されるかもしれないから、それも注意しなくてはいけないようで。万が一容態が急変した場合に備えて、今晩は診療所に泊まったほうが安全と判断され。一通りの説明を受け、清潔な服に着替えて、やっと相手が眠る側に行かせてもらえ。ベッドに横たわる相手の顔は生気がほとんど感じられなくて、僅かな胸の上下だけが彼が生きていると感じられる証拠で。側に置かれた椅子に腰掛け、優しくその手を握り。)
……レイ、痛かったね。まだ痛いか…。頑張ったね、手術。もう大丈夫だよ。あとはゆっくり、傷が癒えるのを待つだけだから…負けないで、ね。ずっと側にいる、から…
(自分に言い聞かせてるのか、相手に届くと信じているのか。掠れた涙声で、そう呟き続け。)
(/お屋敷でレイ様を看病するシーンまでスキップするつもりが、長くなってしまいました…一先ずここまで投稿させていただきました…!続きはもう少しお待ちくださいませ。)
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