暗殺者ちゃん 2021-08-25 08:06:43 |
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( 暗闇に差し込む微かな光が振り上げたナイフに反射した。勢い良く下さんとした腕が止まったのは、掠れた男の声が部屋の静寂を割ったから。暗殺業を長らく続けて居れば、獲物と実際に相見える事もあるし、命を懇願されたとて獲物の首を掻っ切る事も幾度と無く有る。今回だって其れ等となんら変わりない筈だと言うのに、腕が止まってしまった。__自分自身が一番分からない。反射的に息を呑むと、喉を鳴らし唾を嚥下する音が自分の中で厭に木霊した。行動を止めるどころか、死を受け入れる様な言葉に困惑は増すばかり。何よりも王子らしい王子様は最後の瞬間まで美しく有りたいと宣う。真にそう願っているのだろうか。早く刺してしまえば良いと分かっているのに、一度乱された心が正常な判断を下せないままでいる。騒がれぬ様に切先を首元に突き付けてから、此方を見る事なく茫と天井を見上げた双眸を覗き込んで。 )
__…貴方は、死ぬことを恐れないのか。それとも、死を望んで生きているのか。死にたくないと乞い願う人は大勢居たが、最期まで綺麗なままでなどと私に頼んできた奴は貴方一人だけだ。
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