どこかの兄弟 2021-04-20 18:36:39 |
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( チャペルの長椅子に腰掛けているというよりも、だらしなくもたれ掛かっている感じであった。元より期待はしておらず、一種の実験に近いような心持ちだったのである。「 ……くぁ、 」あくび一つを合図に立ち上がろうとして、ヒュウと吹く風に髪が靡いた。祝福の光を模したような閃光に浮かせた腰がわずかに揺れ、瞳が中心の祭壇へと吸い寄せられる。「 ……まじで、来たのか 」わずかに望んでいた青天の霹靂、さぁっと引いていく光の中心には、" 彼女 "が姿を表していた。ゆっくりと背筋を伸ばし、数瞬の間そのままの姿勢でいた、陳腐な言い方をすれば見惚れていたということになる。ただ、いつまでもぼんやりとしてはいられないと思った───なぜか焦りがあった。まるで引っ張られるかの如くふらふらりと歩を進め、花に埋もれる彼の人の元へ。「 頭巾は、被っていないんだな……」頭上へと目をやったのちの独り言、思わずと言った風なそれに、慌てるでもなく目を伏せて。さて何も知らないであろう" 彼女 "に、眩しさと懐古を含めた眼差しを向ける。祭壇の真正面をゴールと定めたらしく、引き込まれた彼女の真正面でピタリと止まっては口角を引き上げて。「 よく来たな、俺の─── 、」後ろの掠れた声は、風にかき消されて消えてしまったが、果たしてこの手を取ってはくれるだろうか。真っ直ぐに差し出した右手は、下手なエスコートのようなものだった。 )
(/少々の誤字がありましたので、訂正とさせていただきます)
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