傍観者 2021-02-22 23:29:30 |
通報 |
ああ、そうしてもらえると助かる。俺は病人の看病は得意ではないし、飯を作るのも上手くはないから。……荷物は俺が持とう。――それにしても、何を考えてたんだ。……あ、いや、言いたくないなら言わなくてもいいんだが。
(そこまで気配を消して近づいたわけでもなかったが、思いのほか覗き込んだ顔と混じり合った視線は驚きの色を見せ、普段はじっくり見る事の無い茶色の瞳が夕焼けの赤に混じって瞬く。いつでも落ち着いていて感情の起伏を見せない普段の様子からすれば少し珍しく、真新しいものに感じた。が、この夕暮れ時に時を忘れて物思いに耽るのは、彼の記憶の中で忘れられないままふと突然浮かぶような記憶があるからだろう。真っ先にそう察してしまうのは、彼と過ごしているうちに近所で突拍子もなく聞かされた"鬼に食われた亡き妻"の事を知ってからだ。例え自身が無関係の鬼であろうと、彼にとって鬼は鬼でしかなく、それについて責める事も言い返す事もできない。当たり前だ、食わなければ満たされない性がこの身に存在するのは紛う事なき事実なのだ。そうして彼に偽りながらも、真実を告げなければと矛盾を抱えて今の今まで生きてきたのだから、実に器用なものだと心中で自身を笑いながら、"風邪を引いてしまう"と言った彼には賛同しつつ両手で抱えていた紙袋に手を伸ばすと、するりと腕の中から取り上げて片腕に抱え、次に口から突いて出た言葉に一瞬、間を置いてから眉を寄せて少々申し訳なさそうに片手で後ろ首を掻いて)
トピック検索 |